14・知れば知るほど素敵な方でした!
(セルディさまはドルフ帝国滅亡後に興った王国から、この領地を下賜された騎士さまだと言っていました)
この城に来たばかりのころ、衰弱しすぎたエレファナは寝台から起き上がることすら難しかった。
そんなエレファナが退屈しないようにと、セルディは仕事の合間を縫って来ては、物語の読み聞かせをするように色々な話をしてくれた。
(ここは私が以前仕えていたドルフ帝国の廃都周辺に位置していて、今はドルフ領と呼ばれているそうです。そしてこのお城に住んでいるのは、セルディさまとポリーとバートの三人だけだと聞きました。大きなお城にたった三人……本当でしょうか?)
「このお食事は、どなたが用意してくださったのですか?」
「通いの使用人たちがしてくれている。食事もそうだが、清掃、雑務などをこなす者たちは近隣の領に住居を構えているんだ。ドルフ領は国から忌み地に指定されていて、基本的に民の定住は禁じられているからな。城に仕える者は砦の警護をする騎士たちと同じく、馬車でこの領へ来てもらっている」
「そうだったのですね。みんなで馬車に揺られるのも楽しそうです。ここの自然は青々として、本当にいい眺めですから」
二人の席は大きな窓際に寄せられている。
三階の高さから眺めれば、広大な森や草原、河原のせせらぎまでよく見渡せた。
しかしのどかなこの自然の中に、魔獣が時折出現する。
領内はそれらの討伐拠点として砦がいくつか置かれていて、派遣された騎士たちが交代で、周辺の地域を魔獣から襲われることがないように見張っていた。
(セルディさまは危険な魔獣を抑えるため、精霊を助けることで土地の加護を得て魔獣を抑止したかったようです。会ったときは自分のためと言っていましたが、それは自分のために人々を魔獣から守りたいということだと思います。つまり私の思っていた通りの……いえ、知れば知るほど素敵な方でした! それにセルディさまが協力してくれたおかげで、精霊の様子も落ち着いてきているようです)
精霊はあれからも丸く光る姿を見せなかったが、エレファナは自分の胸の辺りに、今も不思議な温かさを感じている。
「セルディさま、精霊を助けてくださって本当にありがとうございます。言われた通り、私が飲んで食べて寝ているうちに、精霊も元気になってきたようです」
「感謝するのは、君に精霊の命を繋いでもらっている俺の方だろう。ドルフ領主である俺の務めに協力してもらっているのだから」
「精霊が元気になれば、ドルフ領に出現する魔獣が弱くなったり、現れにくくなるんですよね? 最近はこの地の魔獣も減ってきているのではありませんか?」
「精霊はまだ君の魔力を必要としているようだし、土地の加護が出るほどの回復となると、すぐには難しいだろう。精霊は君の膨大な魔力があったからこそ救えたのだろうが、助かったこと自体が奇跡的なほど弱っていたはずだ」
「そうですか……」
(確かに精霊は、私の内側から出てこようとはしません。私の魔力もわずかになっていて、供給が少ないのかもしれません)
「セルディさま、私は精霊が自由に動き回れるほど元気になって欲しいです。セルディさまのお役にも立ちたいです。もう立っても倒れないくらい体力が戻りましたし、他にお手伝いできることはありませんか?」
「焦っても仕方がないこともある。このまま君の力が戻れば精霊も良くなると信じて、今はよく食べ、よく身体を休め、体力を養うことだ」
セルディは再び白パンを口に運びながら、飾らないのに上品な食べ方をするようになったエレファナを見つめる。
「しかし、食事もしっかりとれているようだ。もう少し体力が付いたら、軽く身体を動かすのもいいかもしれない……そうだな」
セルディは言いながら、ふと窓へと目を向ける。




