11・不安は消えましたか?
「私は他に、なにをすればいいでしょうか?」
「もう十分だ」
「十分ですか?」
「ああ。いくら君が膨大な魔力を持つとはいえ、二百年もの間飲み食いせず、結界を張り続けて衰弱しきっていたんだ。俺はこのまま目を覚まさない可能性すら考えていた。それが起きたとたん、どこからわいてくるのかわからないやる気を見せられて、もう十分だ。おかげで先ほどまでの不安は消えた」
「不安は消えましたか?」
自分の言葉をくり返され、セルディはその感情を抱いていたことに、はじめて気づいたかのような顔をした。
「では私にできることは、もうないのでしょうか」
物足りなさそうに呟くエレファナを見て、セルディはわずかに声の調子を落とす。
「……十分とは言ったが。俺は君に確認したいことや、説明したい事情も色々とある」
(セルディさまが私に……!?)
「ぜひ聞きたいです。お話ししたいです!」
「だが今は話よりも、君の体を休めることが一番優先するべきことだろう」
「そうですか……」
自然とエレファナの声がしぼむ。
その様子を見て、セルディは寝台に横たわるエレファナのそばに再び屈んだ。
「もしエレファナが良ければだが。先にひとつだけ、聞いて欲しいことがある」
「……! は、はい、一体どんなお話でしょうか!」
(ついお願いを欲張ってしまいましたが、さらにもうひとついただけるなんて!)
エレファナはご褒美でも当たったかのように、きらりと目を輝かせてセルディを見上げる。
しかし銀の瞳は、思い詰めているような真剣さでエレファナを映していた。
「すまなかったな、エレファナ」
「は……ぃ」
「初めて会ったとき、俺は自分の知っていることだけを信じ込み、君にひどい態度を取った」
「……」
エレファナは珍しく、深刻そうな表情で夫を見つめ返した。
(困りました。セルディさまがなんのことを謝られているのか、私にはちょっとわからないようです。でも謝罪の内容について根掘り葉掘り聞いたら、失礼な気がします。お話の意味を理解もしないで「気になさらないでください」と言うのも変に思われるかもしれません……。あ、私のことなら、すでに変だと思われている気もしますが)
考え込んでいるエレファナに、セルディはいたわるように囁く。
「無理をする必要はない。もし俺を許せないとしても仕方がないことだ。ただ君が心に傷を受けているのなら、それを少しでも和らげることができればと思い、早めに伝えたかった。少なくともあの時点で、君に非はなかった。あのような態度を取った俺が悪かった」
セルディの言葉を聞きながら、エレファナはひとつだけ、わかったような気がした。




