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【完結】愛を知らない傾国の魔女は、黒銀の騎士から無自覚に愛着されて幸せです  作者: 入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
1章

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10・夢ではありませんでした!

 客室のカーテン越しに、うららかな日光とそよ風が舞い込んでくる。


 陽気につられるように、丸一日眠り込んでいたエレファナは目を覚ました。


(……あら? ゆらゆらしません。それに)


 焦点の定まらない視界に、ぼんやりと人影が映る。


「セルディさま……?」


 無意識の呼びかけに振り返ったのは、長い髪を後ろでお団子にまとめている女性だった。


「エレファナさま、ですね。具合はいかがですか?」


「は、はい。あの……ここはまだ夢の中ですか? 私を知っているあなたは誰でしょう? それに私の助けた精霊は? 私の旦那さ……セルディさまがどこにいるのか知っていますか? あの記憶は全て夢だったのでしょうか……」


「夢ではありません。ここはセルディさまの居城ですよ」


 お団子の女性は穏やかに歩み寄ると、次々と出てきたエレファナの質問にひとつひとつ答えていく。


「私はセルディさまの言い付けで、あなたのお世話をすることになりました。ポリーと申しますので、そう呼んでください。精霊はあなたの内側に隠れて見ることはできませんが、しっかり休んでいますよ。セルディさまは、」


 不意にドアノブが回った。


 扉の奥から整った容姿の若い男が現れ、慌てた様子で室内を覗く。


「ポリー、話し声が聞こえたが」


(本当に……夢ではありませんでした!!)


 エレファナの顔がぱっと明るくなったところで、ポリーは声を上げた。


「坊ちゃん。ノックもなさらず突然入るなんて」


「ポリー、そろそろ坊ちゃんはやめ、」


「いいえ言わせてもらいます。いくら奥さまの容態が気がかりだったとしても、相手は静養中の方ですよ。彼女が健やかになることを、あなたが一番望んでいるのでしょう? 隣のお部屋で目覚めを待ちわびていた気持ちはわかりますが、そんなに慌てなくても」


 セルディは元乳母に小言をもらいながら、視界の端でぎこちなく動くエレファナが、不安定な姿勢で寝台から降りようとしているのを捉える。


「っ、おい」


 セルディはエレファナのそばに駆け寄って手を伸ばすと、あやうく床へ落ちかけた細い身体を押し留めた。


「危ないだろう。体がまともに動かないまま、無理に寝台から出ようとするなんて」


「す、みません」


 エレファナは自分の体の状態に気づいていなかったのか、驚いた様子で息をつく。


「無理をしたつもりはなかったのですが、セルディさまが来てくださったので。おそばに行きたくて、無意識に身体が動いてしまいました」


「……やはり、すりこみなのか」


「? 私はすりこみではなく、エレファナです」


「ああ、エレファナ。一人で歩けるようになるまでは、自分だけで寝台から出るのはやめたほうがいい。できるか?」


 エレファナは一瞬耳を疑ったが、意味を理解すると何度も頷く。


「は、はい! できます!」


(セルディさまからお願いをされました……! 妻にしていただいてから、はじめてお役に立てるかもしれません!!)


「あの。私は他になにをすればいいのでしょうか?」


「なにをすれば……? そうだ、飲み物は飲めるか?」


「はい、飲めます!」


「食事は取れるか?」


「はい、取ります!」


「夜は早めに寝れるか?」


「はい、寝ます!」


「そうか」


 セルディはエレファナをそっと元の位置に横たえると、寝台から落ちかけたときにはねた珊瑚色の髪を、撫でるように直していく。


「食事はすぐに用意する。それまでは体を休めていて欲しい。できるか?」


「はい、できます!」


 セルディはほっとしたように頷くと、静かに立ち上がった。


「あの、セルディさま」


「ん?」




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