表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第七部 勇者が世界を滅ぼす日
189/202

滅亡行進曲 その1

あらすじ

 新教設立宣言を行う催しが開催されることとなり、女神アシュティのまま再び王都へむかうのだった。



 いよいよ宣誓の日に控え、中央王都へ馬車で向かっている。

 敵勢力に上位魔女が複数いることから、空間転移(ゲート)は転移先を狙われる可能性があったためだ。

 それに貴族用馬車では勘付かれるので、途中で商人用の馬車に乗り換える予定になっていた。



 あれからアミとナナは一旦紅蓮の魔女(パドマ・ウィッチ)のもとへ帰り、再びアルフィールドの精鋭と共に護衛としてやってきた。


 彼らは様々な仮想敵を想定している。


 王国軍そのものは女王の配下にいるとはいえ、ミケランジェロが抑えているので警備以上の事はしないそうだ。

 今最も警戒しているのは女王直属の暗殺部隊として噂される召喚勇者の中でも武闘派連中だ。

 女王がかなり強引な手をつかう際に彼らの存在がちらつくのだとか。


 次にヴェントル帝国の目的は暗殺ではなく、女神の奪取だった。帝国皇帝はあくまでアルフィールドと協力関係にある。表立っては動かない。

 しかし欲をかいたようで、独自に魔女部隊を編成しているそうだ。


 次にヴェスタル共和国。奴らは諦めてはいなかった。

 ミザリを除名し、新たな教皇を立てることも考えられたが、後ろ盾にジオルドと上位魔女がついているということが知れていたので、為されることはなかった。

 このままでは思い通りにならない上に、美味しいところは全部ジオルドに持っていかれてしまう。

 そう考えたヴェスタル中央は、女神奪取に命運をかけた。



 更に次はサラサハ王国という極西にある砂漠の国も、女神の奪取を目論んでいるという。

 その国は九割が砂漠だが、化石燃料が産出されるので裕福であるとか。多くの魔女を引き連れてくるそうだ。



 そしてアルフィールドはジオルドとの取引、アシュリーゼ奪取が主たる目的だ。

 ただ公開の場であれば女神の殺害は不可能と考えているミケランジェロは少し甘いのではないかとボクは考えている。


 ボクと知らないエルランティーヌにとって、勢力図を大きく書き換える事象を嫌い、躊躇をしないと思う。



「心配するな。キミは必ず守る……!!」



 馬車の隣に座っているのは現在の主、アーノルド。

 隷属枷をこじ開けようと隙をみて調べてみたが、思ったより魔術が複雑に組まれていて、自力では難しいことがわかった。

 おそらくシルフィがいれば解くことが可能だろうが、今のボクではまだ魔力が足りないと思う。


 だからアーノルドは守るより、この枷を外してほしいのだけれど完全に姫を救う英雄気取りで話を聞いてくれない。


 対面には護衛として、紅蓮の魔女(パドマ・ウィッチ)、そしてアミが座っている。

 ベルフェゴールとナナは別の馬車だ。なぜこうなったかと言えば、アミがついに上位魔女となったというのだ。


 ……いくらなんでも早すぎる。



 クリスティアーネだって千年以上生きてやっとなったというのに、彼女はまだボクより一つ上だったと思う。



「すごい……」

「いえ……あの、そんなことは……」



 アミはまだボクと勘付いていないのか、もしくは気づいたけれど知らないふりをしているのか微妙だ。

 たしかにそれは助かるが、出来れば彼女と打ち合わせがしたかった。一人になることができない今のボクでは難しいだろうが。




 途中の街で停車し、商人を装う。護衛騎士もここまでで、精鋭のみとなる。大所帯では気付かれるからだ。

 少し安そうな生地のローブをまとい、親子商人を装う。本来であれば国賓待遇で迎え入れられてもよい立場だし、実際準備されている。

 暗殺の警戒がとても高いことを考えても、敵が多いのだろう。



「さ、こちらです」

「ありがとう」

「……ちっ。早く乗れ!! 敵襲だ!!」



 どこからか情報が漏れたのか、敵意がみえた。でもこれは理性のあるモノではない殺気だ。

 ここはサーヌイ川沿いの森が近くにある町。となれば魔獣の暴走(スタンピード)が起きている。

 そしてこの馬車近くを狙い撃ちしている。つまり何者かが手引きをしたということ。



 ボクとアーノルドは商人用の馬車に乗り込み待つ。アーノルドも警戒して手を剣に置き、戦闘態勢を崩さない。

 あれほど強い護衛がいるのに、ぽつりぽつりと馬車に潜入され始める。



「どうなっている? 二人は上位魔女ではないのか」



 アーノルドが外の様子を除くと、隙間からボクの視界にもそれが目に入って来た。

 数だ。

 異常な数の魔獣が襲ってきている。アミと紅蓮の魔女(パドマ・ウィッチ)が軽くあしらっているのは見えたけれど、余りの多さに打ち漏らしがあったようだ。

 それに二人とも、広範囲殲滅や、強力な相手を倒すことに特化した能力。

 弱くて多い敵を倒すためには、町をまるごと破壊しかねない威力になってしまう。

 抑制しながら戦っている状態で突破を許しているのだった。


 その様子を鑑みて、アミは反魔力(リバース・コア)を使うことを辞めたようだ。

 こういう場面では不向きなことに気がついていた。かわりに初級魔法で対処している。同時に八つもつかう魔法を操る技術は壮観だった。


 同様に紅蓮の魔女(パドマ・ウィッチ)も肉弾戦で対処していた。彼女の一振りは周囲に影響が大きすぎる。


 少し離れていたところでは、ベルフェゴールとナナも戦っている。ベルフェゴールは盗賊剣(カットラス)で、ナナは長剣で戦っている。

 はっきりいって、ナナは戦い向きではないがこんな混戦では戦わざるを得ない。



「きゃぁ!!」

「気張りな! ナナ!! 手段がないなりに足掻け!!」

「は、はい!」



 彼女たちが必死で蹴散らしている中、アーノルドはボクを守りながら打ち漏らしを倒している。

 その数は多くないので、奴であればすぐに倒せるだろう。そう安心していたら、後ろで倒れる音がした。



「アーノルド様?」



 馬車の周囲には誰もいなくなっていた。使用人達も自分達のみを守るので精一杯のようだ。

 アーノルドに近づくと、気絶させられている。



……いや、何だ? この匂いは……。



 なにかの薬品を吸って、やつは気絶させられたようだった。それは馬車内に充満している。

 咄嗟に口にローブの布を口にあてて、防ぐけれど少し痺れて来た。この薬品に覚えがある。



まずい……あのときの毒と同じだ……。



「らすけれ……!!」



 声を上げようとしても、力が入らずに呂律が回らなくなってきた。



……くそ! 守るって言っていたくせに!!



 アーノルドを揺さぶるが、目覚める様子がない。力が足りないのかもしれないと必死に揺さぶることしかできなかった。


 近づいて来た人の気配が中に乗り込んできた。彼女たちの包囲を抜けて来たとすれば、かなりの脅威。

 こいつは殺害目的か、拉致目的か。



 入って来たのは、暗いローブに身を包んだ小柄の女と長身の男の二人。何も話さないところをみると、あらかじめ計画されたものだったのだろう。

 慣れた手つきでボクに猿轡をして毛布にくるむ。そして男が担ぎ上げる。しかしボクはいま隷属状態だ。

 アーノルドと離れれば、制約がかかるはず。馬車から出たところで魔法的な拘束制限がかかったことに男が気づいた。



……まずい!! 起きろ!! アーノルド!!



 そう思っても、うぅうぅと唸る声しか上がらない。恐らくこの制約を解くために、アーノルドを殺すだろう。

 女は再び馬車の中へ入った。ほんお数秒で出てきたところをみると、殺害に手慣れているのだろう。

 すでにアーノルドは……。



 ……くそぉおぉおお!!



 悔しかった。守ると言ってくれたのは下心があったのだろうけれど、それでも友達の少ないボクにとっては嬉しいものだ。もっと強くこの枷を外すように言うべきだったのだ……。



 自分の無力を嘆くも、無情にも二人はボクを担いで進んでいく。毛布が邪魔でどこをどう進んでいるのかよくわからない。

 そして先ほどの毒が進行したのか……ボクは意識を失った。











 ……ここは?



 ぴちゃり、ぴちゃりと水滴の音が聞こえる。響く音はそこが閉鎖空間であることを意味していた。

 あれ以来ずっと目がぼやけたままだったから、ずっと気配と魔力の動きで保管していた。

 そのおかげで今が真っ暗でもどこに何があるかは、ほとんど把握できている。

 ここが地下室であることがわかった。そして察するに以前、漂流から復帰した時に捕まった時と同じ地下牢だ。


 どれほどの期間が経ってしまったのか、わからない。今、自分がどうなっているのかはわかる。未だ毒と隷属の枷の所為でアシュティのままだった。それに隷属の枷の上から鉄の枷がはめられそれが鎖でつながれている。さらには目隠しまでしてあることに気がついた。





 ……くそ!! アーノルドはおそらくもうこの世には……。



 地下牢の天井が開き、階段から降りてくる人物がいる。人数は三人。気配から王国騎士であることは分かった。

 まだ生きているということは、王国で暗殺しようとしていたという考えは違ったのだろうか。



 いや……いま冷静に考えれば女神アシュティという勢力を徹底的につぶす気でいるのなら、ミザリを野放しにするわけがなかった。暗殺というよりアシュティ教の存在の否定が目的か。


 だから犯罪者としてアシュティを捕らえるということだ。世界中の敵であり手配犯であるボクが、別の姿でもう一回、世紀の大悪党として捕らえられる。

 何の冗談だ……。



 降りて来た騎士は無言で牢の鍵を開け、ボクが繋がれている鎖を解き、移動用のロープに付け替えられる。

 おそらく女神である事。その力に感化されて騎士が洗脳されてしまうことを恐れている。



「歩けるか?」

「……はい」



 そういってボクは微笑んだ。どんな状況でも女神を演出し、最後まで生き残ることだけを模索する。


 彼女たちが待っているし、子供も生まれるのだからこの目で見るまでは死ねない。


 ロープ引く騎士は、苦悶の表情を浮かべる。罪悪感で苛まれているのだろう。



「す、すまない……」

「おい! 女神と話すな! 洗脳されるぞ!」

「は! 失礼しました!」



 やはりそれを警戒していた。もちろんボクにそんな能力はない。ただ愛嬌を振りまき、気丈を装い謀るだけだ。

 あわよくば隙ができないかと模索するも、やはり警戒心が強くて難しい。




 ボクはそのまま鉄檻が積まれている馬車に入れられた。鉄檻は布をかぶせられ、そのまま運ばれる。

 これから見せしめに、さらし者にでもされるのだろうか。











――グランディオル王国、カスターヌ演劇場



 運ばれた先はやはり演劇場のようだ。大勢の人々が集まっているのか、かなり大きな喧騒が聞こえる。いつぞやの懐かしい舞台裏の控室へ鉄檻は運ばれた。

 すでに宣誓の儀は、始まっている様子だった。そして女王陛下の声が聞こえる。



『――以上、総意は新教アシュティ教をこれに認めず!』





読んでいただきありがとうございます。

滅亡行進曲編その2につづきます


広告下の★★★★★のご評価をいただけると嬉しいです。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ