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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第六部 奴隷化計画
114/202

珈琲の味

あらすじ


 皇城の帝都軍本部に招待され、メフィストフェレスとの再会を果たす。帝国や彼の印象は考えていたものと全く違っていた。



 帝国軍側から見た戦況を聞く。今後の作戦や軍事技術についてはさすがに部外秘だったが、差しさわりのない範囲で教えてくれるそうだ。


 初公演の日にグランディオル王国が戦争宣言をしたのは書簡で送られて来たが、実質もっと前から戦争状態だった。


 やはりきっかけは魔王討伐。あれから王国は一気に衰退した。魔王討伐したことで軍事的勢力(パワーバランス)が崩れていった。

 魔王領としてはボクが入った事で急激に強くなったが、人間の世界への干渉がほとんどなかったから影響は少なかった。

 しかしボクが助言して干渉する割合が増えてしまった。



 ボクがしたことは魔王領を滅びの道へ導く行為だったのだ。メフィストフェレスはボクと会った時からそれを予感していた。

 それで魔王領を離れたわけではないが、ボクとの距離を取っていたのは確かだ。



 それから王国軍に侵攻されてしまった緩衝地帯の採掘場を取り返すために再度侵攻始めたのが帝国軍。帝国軍にとっては侵略ではなく奪還だったが、王国側ではそれを侵略されていると触れ回っていた。


 エルダートが将軍の時には『勇者の福音』を求めて交渉に来ていた。強引な手を使ったとばかり思っていたが、実際はそうではなかった。

 そして結局レイラを亡命という形で奪われてしまった。


エルダートとレイラが亡命したことで、皇帝のメンツは丸つぶれ。彼らはその時『勇者の福音』奪取は眼中になく、うやむやになっていた。『勇者の福音』の実態や利益を把握していたのはエルダートのみだったからだ。

 皇帝はレイラの奪取とメンツ回復を優先させた。


 初公演日に皇帝からおりた命令は、エルダート、レイラの拉致。そしてメフィストフェレスからは研究対象としてアイリスの拉致。

 しかし召喚勇者は勝手にボクへ殺意を強めていたという。

 案の定ボクに固執するあまり作戦はエルダートの拉致だけに終わり大失敗だったそうだ。



「なんでそんなにボクは恨まれているんだ?」

「同郷の奴を手籠~めにされたってぇ~いってい~たぞ?」

「アミやナナの事か」



 いまアミは行方不明だ。魔女になって力をつけたからと言って少し心配だ。ナナに関しては魔王領で強かに生きている。しかし魔王領の中で唯一の人間だ。

 いつ排除されてもおかしくはない。




 初公演ではボクの存在をそれほど知られていない。それこそあの召喚勇者が恨みを持っているくらいだ。だからボクが失踪したことなんて知る者もいなかった。


 王国軍はその後シルフィの指揮下に入ったが防衛に失敗して多くの命を失ったと言っていたはずだ。

 しかしそれはちょっと違うようだ。


 帝国側の召喚勇者と、王国側の召喚勇者が暴走したらしい。命令を聞かずに泥仕合を始めてしまって、その力の渦に周囲が巻き込まれたというのが実態だった。

 帝国軍の通常の騎士はすぐに撤退し、遠方に指令本部を置いて観察に徹していたため、被害はほとんどなかったそうだ。

 しかし王国側は国民がその場に多く滞在していたため、軍が引くに引けずその場を守った。結果として王国軍の遠征舞台および作業員や村人は全滅。王国軍側の召喚勇者が撤退したことで幕は閉じた。

 残ったのは大量の死体だけだった。



「ひっでぇ~話だろぉ……力ないものが犠牲にな~るんだぁ」

「その時帝国軍の将軍はお前だろ?」

「あ~そうだ。だ~から召喚勇者は~それ以来防衛以外にはつかってねぇ」



 ん?……だとするとあの雪崩を起こした召喚勇者は別口か。それに……。



「魔王領には侵攻しなかったのか?」

「あぁん? そ~んな遠方にいくわきゃねぇ~だろ? 途中に王国軍にみつかっちまぁう」



 言われてみればそうだ。魔王領に行くためには王国の領地を横断しなければならない。飛行手段でもない限り、王国軍の攻撃を食らうことになってしまう。

 ではあの村を襲ったのは一体誰なのだろうか。



 ……⁉



 ある事が気になっていた。

 あの子たちの遺体は放置されていた。少なくとも魔王領で防衛線が離れたならば既に弔われていなければおかしいのだ。

 あまりに無残だったその死に様に、ボクは涙して謝って埋葬したのだ。


 帝国軍が侵攻できないとするなら、魔王領か王国軍しかない。濃厚なのは王国軍。それから召喚勇者だ。

 彼らはバラバラに所属しているが、考え方がとても似ている。自分の都合やその場の気持ちだけで行動し、周りの事を一切考えない。


 あの中ではアミが異常だったのだ。ボクにとっても好印象で憧れてしまうほどの正しい考え方は、元の世界ではいじめの対象となっていた。


 だから王国や帝国の命令なんて聞かずに、独自の考え方で殺戮を繰り返している可能性を否定できない。



「まぁ~うめぇ茶でも飲んでおちつけぇい」



 そう言って出されたお茶は真っ黒だった。これは飲み物なのだろうか。むしろ毒ではないのかと聞くと大笑いしていた。



「ケケケ。初心者はそう思うよなぁ……まあ飲んでみろって」



 一口口に含むと、ふわりと良い匂いが鼻を突き抜け、心地よい酸味と苦みを感じた。確かに子供は飲めない飲み物だけれど、ボクはかなり好きな味だった。



「ぐひぃい……に、にが……んべ」

「ケケケ、魔女様にゃまだ早かったかぁ?」



 ……彼女はボクらより年上と……言うと嫌われそうだから黙っておく。

 彼女は不満そうな顔で、ギョロヌとメフィストフェレスを睨んでいる。けっして強い恨みを込めた睨みではないのだけれど、身震いしている。

 それに慌てて彼女のカップにミルクと砂糖を足している。こうすることでまろやかな味わいに変わるそうだ。



「うぇへへ……お、おいしぃ~」



 今度はご満悦の様子だ。

 おかげで彼女の幸せそうな顔を見ていると、ボクの煮詰まった頭はすこし冷えて来た。


 この飲み物は珈琲(カフェ)と言うらしい。

 植物の豆から炒って磨り潰して、お湯でこすと出来る。豆はどの国でも比較的南側なら生息している。

 しかし今までは、誰も見向きもしていないものだったそうだ。それがある時、とある人が製法を編み出したそうだ。



 ボクはこの世界にはないような技術に思い当たる節があった。そうだ。アミやナナが作っていたお菓子だ。あれと同じように味が洗練されていてとても繊細だ。

 まさかとは思うが、アミはこの国に来ているのではないだろうか。



「この製法を伝えている人に会えないかな?」

「た~しか……いま帝都の南にあるパリッツェバーグ町にいるって聞いているぜぇ」



 ボクが後で行こうと話していると、それを彼は止める。いちいち行くんじゃなくて人をうまく使うことを覚えろと言う。

 全くその通りだが、ボクは力業で移動した方が早いと思ってしまう。魔王領ではそんな性格だから、ルシェが全部やってくれていたのだと改めて認識した。

 その人物には帝都支部教会を訪ねるようにと伝言を頼んだ。



 そして時は下って、奪取していた鉄鋼採掘場は魔王軍が出てきたことで再び奪取された。召喚勇者は使っておらず、帝国軍騎士のみで防衛していた。それに最小限の採掘のみを行っていたことで鉄鋼作業員も少なかった。

 おかげで死者は多少出たものの、数名にとどまっていた。戦死者の家族には手厚い保証がされているという。

 聞けば聞くほど王国とは雲泥の差だ。


 それから幾度となく帝国領内まで侵攻をしてきていた魔王軍勢に皇帝はしびれを切らして、殲滅命令をだした。

 ただ現状で悪魔の軍勢に勝てる者が帝国軍にはおらず、仕方なく再び召喚勇者の出番となった。しかし彼らは歯止めが利かず、やはり遠征に来ていた魔王軍と防衛している王国軍は全て殲滅してしまったのだ。

 明らかに禍根を残す結果となった。現状は防衛させているが、いつ報復されるかわからない状態だと言う。



「そ~んな感じだぁね。 王国はあ~れすぎだろぉ?」



 そして今は新たな作戦があるという。多くは語ってくれないが、この事態の元凶であるロゼルタ姫の暗殺計画だ。

 エルランティーヌ女王の治世がきっかけであったことは間違いない。しかし今や彼女は失脚し、帝国でも行方を追えない状況だ。

 そして王位継承こそこれからだが、すでにロゼルタ派が治めていると把握していた。だから王位継承させるつもりはないという。


 具体的な方法はさすがに部外秘だった。それでも気を良くしたメフィストフェレスはボクたちを信用しているかのように、多くを語ってくれた。



「なんかオ~メェに全部吐~かされちまったなぁ~ケケケ」

「お互い様さ」



 最後にと、一つだけ確認した。あの雪崩を起こした召喚勇者についてだ。女はナオコ、スミレという名。男はダイスケ、エイジという名だ。そのうちダイスケ、エイジという人物は帝国に亡命しているはずだ。


 しかしメフィストフェレスの手元にある亡命者名簿に二人の名前はなかった。ただ亡命者が必ず彼の場所に配属されるとは限らないという。もしかすると皇帝の子飼いかもしれないそうだ。

 確かにその方がしっくりとくる。



「ありがとう! 楽しい茶会だったよ」

「ケケケ~オ~レもだぜぇ? ま~たあいてぇからゲート設置してけぇよ」



 そこまで信用してくれているとは思ってもなかったから驚いた。ここに設置すれば、いわば常に彼を殺そうと思えばすぐに殺せる状態になる。

 それでもボクに期待をして信用してくれているという。


 どこに行っても、信用はクリスティアーネでボクはその従者だった。それ以前でもボクが公然とした信用を得ることは少なかった。

 だからだろうか、ボクからももう少し彼を信用しようと思えた。






 再び馬車に揺られ、帝都教会支部へ着く頃には夕飯の時間になっていた。孤児院の中に入ると既に良い匂いが漂っている。



「あ! 二人とも無事だったのね!!おかえりなさい!」

「わ~おねぇちゃん立ち戻って来た~! よかったよぉ!」



 いきなり将軍から招待状が届いたことで、みんなに心配をかけてしまったようだ。なにかひどいことをされたと思っている。

 大丈夫であることを身体で表現して子供たちを安心させた。その様子を見ていたシスターはくすくすと笑っている。



「アーシュくんは本当にかわいい子ね! ……ふふふ」

「ぐひぃ……あ、あたしのぉ」



 こちら見て微笑むシスターに対して対抗意識を燃やすクリスティアーネ。魔王領の時に何人も女性を愛していたおかげで、惚れやすい浮気性だと思われているのかもしれない。



 その日もまた教会で夕飯をいただき、もう一泊させてもらう。明日は南の町から珈琲をつくって広めた人物と会う。それはおそらくアミではないかと思っている。


 なぜ帝国にいるかはわからないが、また会えるのが楽しみだ。






読んでいただきありがとうございます。

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