2−6 月も見えない夜
月明りもない闇の中、いつもの身を丸めた体勢でラストラは周囲の異変を感じ取っていた。何者かが集団で、洞窟を抜けて来た。まだ、森にも入っていないだろう。
ぞろぞろぞろぞろと……。三十人くらいか。相手にするのも馬鹿馬鹿しい。何故、死に急ぐのか。
楽観的に考えていたラストラだったが次の瞬間、黒の巨躯が僅かに震えた。
最後に入って来た奴……。
コイツだけ格が違う。
「……シャラ。……シャラ、起きろ」
眼の前で眠るシャラに、静かに声を掛けた。
ラストラ同様、身を丸めて眠っていたシャラが身を起こす。
「ん……。なに?」
「時間がないから詳しくは言わないが、少しだけ面倒な事になりそうだ。お前が、食い物を溜めてる穴が森にあるだろう? そこに隠れてろ。まだ間に合う」
「うん、分かった」
それ以上言わず、シャラは素直に聞き入れる。
シャラは走り出した。十才の少女とは思えない速度。
あっという間に森に消えた。
――――
シャラが消えて数分後、ラストラは自分の周囲の木々に隠れ、息を殺している人間達を察知していた。
囲まれている。しかし、何故かこいつらはそれ以上近寄らない。
ここまできて怖気ずく訳もあるまい。
不信に思いつつも、ラストラは動かない。先制攻撃をしようとは考えない。
それは「腐食の王」としての誇りか。
それは「要注意は一人だけ」という慢心か。
身を動かす事もなく、丸まったままラストラは事態が動くのを待つ。
シャラはちゃんと隠れただろうか。
そんな事を思ったとき、森の中から一人の男が現れた。
全身傷だらけの男。武器も何も持っていない。ひどく怯えている。
ラストラの正面をまっすぐ歩いてくる。
囮かなにかのつもりか? 見くびられたものだ。
その男の出現によって、寧ろラストラは正面の男より周囲へ意識を向けようとした。
しかしその時、ラストラはある事に気付いた。それはラストラを動揺させ、冷静さを失わせた。「腐食の王」らしからぬ失態だった。
この男の血――、何故この男の血はシャラと同じ匂いがするのだ⁉
男の肩に蠍の刺青が見える。




