2−2 赤黒く染まったローブ
数ヶ月後、気温は下がり切っていた。
雪が「空が見える大穴」から舞い降りている。小さな川は一部に氷が張っていた。
シャラがラストラに声をかける。
「ラストラ、またお腹が減る時期が来たね」
「ああ、そうだな」
ラストラ自身は、数年程度なら飲まず食わずでも平気だがそう応えた。
毎年この時期が来る前に、シャラは木の実などを溜め込んでいた。草原から森に入り、少し歩くと小さな洞穴がある。そこへシャラは運び、食料不足に備えている。
シャラは、基本的に自分のことは自分で出来るようになっていた。
食料の調達も。
服の製作も。
気持ちの整理さえも。
ラストラはシャラに母親のことを殆ど伝えていない。
お前を産み、死んだ。
逞しい人間だった。
優しい人間だった。
何よりもお前を優先していた。
この程度しか伝えていない。
シャルが生前ずっと着ていたローブは、シャラに渡している。
白いローブだったが、母親が染み込み赤黒く変色してしまったローブ。
シャラもラストラから聞いたこと以上のことを知ろうとしなかった。
シャラは母親のローブに一度も袖を通そうとしなかった。
人間の感情などラストラには理解出来ない面が多い。そんなラストラでも、シャラが苦しみや悲しみや寂しさを押し殺しているのは理解している。
「……ラストラ?」
名を呼ばれて、ラストラは我に返った。返事をする。
「暖かくなるまでの辛抱だ」
「うん」
シャラは小さく笑った。
その笑顔に、何故かラストラは頼もしさを感じる。
――もしかすると、オレが余計なことなどしなくとも「伝わるもの」もあるのかも知れない。
ラストラが感じ続けている不安は、日々少しずつ溶けていく。




