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第22話

 「お姉ちゃんの用件ってなんだか知ってますか?」

 「いや、ボクも知らないんだ。まあ、行けば分かるんじゃないかな」


 本田先輩も知らないのか。家の用事ならわざわざ学校で呼び出しなんてしないだろうしな。


 普通教室棟の1階、普通科側の廊下を通って教職員棟に入り、保健室から外廊下に出る。外廊下は屋根つきのコンクリートの道で出来ていて、まっすぐに生徒会棟までつながっている。

 その外廊下をずんずんと進んでいくと、古めかしい洋式の建物が見えてきた。木造2階建てのその建物は、元々この学校の理事長室として使われていたらしい。理事長室が教職員棟に移されると同時に、その洋館は生徒会棟として使われるようになったと歩いている途中で本田先輩から教えてもらった。


 建物のドアを開けて中に入るとすぐに階段があり、その階段をギシギシと昇っていく。1階にもいくつか部屋はあるけれど、今は使用してなく、倉庫のようになっているそうだ。

 2階に上がり廊下を少し進んだところで、本田先輩が左側のドアを開けて部屋に入る。本田先輩に続いて部屋に入ると、そこにはお姉ちゃんを始めとする生徒会役員の人たちがいた。


 「怜香さん、妹さんをお連れしましたよ」

 「御苦労さま、本田君。ただ、下の名前で呼ぶのは虫唾が走るからやめてちょうだい。東雲さん、もしくは会長と呼ぶようにいつもお願いしてるでしょう」

 「東雲さんじゃ、優ちゃんと区別がつかなくなるじゃないか。いいじゃない、怜香さんで。会長と呼んではその素敵な名前を呼ぶ機会がなくなってしまうよ」

 「はいはい。それから私の妹を優ちゃんと呼ぶのもやめてちょうだい」


 本田先輩がやれやれと肩をすくめる。


 「将来、義妹になるかもしれない子なんだ。そんな他人行儀に呼ぶのも失礼じゃないか」

 「誰がいつ義妹になる予定があるのよ!はぁ…私は今のところ誰ともつきあうつもりはないってさんざん言ってるはずなんだけど…」


 お姉ちゃんが疲れた感じで肩を落とした。対称的に本田先輩は愛嬌のある笑顔をお姉ちゃんに向けている。


 「1年の時からアプローチしているんだ。そう簡単には諦めないですよ、怜香さん」

 「もういい加減に諦めてほしいわ…」


 お姉ちゃんと本田先輩のやり取りに驚いて茫然としてしまった。

 本田先輩はお姉ちゃんのことが好きだったのか。それにしてもこれほど公然とアプローチする人も珍しい。お姉ちゃんに食堂で本田先輩の話をした時、顔をしかめていたのはこれが理由か。お姉ちゃんが人を苦手とするなんて珍しいな。


 そのお姉ちゃんは生徒会室の窓際の机に座り、組んだ手に顔を乗せて本田先輩と僕の方を見ていた。机の上には会長と書かれたプレートが置かれている。


 部屋を見てみると、部屋の内装は洋式で、真っ白い壁にアール・ヌーヴォー調のアンティーク家具がよく映えていた。

 部屋の中を見回すと、お姉ちゃんの右隣の席に副会長の榊原先輩がいた。ノートパソコンを使って何か作業をしているらしく、画面に向かってカタカタと打ち込んでいる。

 お姉ちゃんの左隣の席には書記のアカハ先輩がいた。ファイルとにらめっこをしながら調べ物をしているようだが、僕に気付くと「やっほー」と手を振ってくれた。

 アカハ先輩の隣の席には酒井先輩がいて、榊原先輩と同様にノートパソコンで作業をしているようだ。こちらに向かって会釈してくれたが、すぐに作業を再開している。

 うーん、なんかみんな忙しそうだ。


 聖エストリア学院は自由闊達な校風で、生徒の自主性を尊重しているため、生徒会にはかなり大きな裁量が任されている。そのため、生徒会での仕事は多岐に渡り、また生徒会で決済する事柄も多く、作業の量はかなり多い。

 お姉ちゃんの話では来週早々に生徒総会があるらしく、その準備もあって忙しいのだろう。最近は帰りも遅いみたいだし。


 「そういえば、お姉ちゃん。用事ってなあに?」


 小首をかしげならがお姉ちゃんに問いかける。忙しそうだし、とっとと用件を聞いてこの場は退散することにしよう。


 「え、ええ。そうそう、優に訊ねるけど、ここ最近いろいろな部活に誘われているでしょう」

 「う、うん。そうだけど…お姉ちゃんに話したっけ?」

 「噂になっているし、ゆっきーが優が勧誘されているところを見たっていうしね」


 うえ、噂になっているのか。確かにこの時期で部活が決まっていない生徒がいるというのは、部活動をしている人間にとって貴重だ。噂になってもおかしくはないか。


 「つい先ほども2年生の生徒たちに囲まれていたしね」

 「…っ、そうなの、優?」

 「うん。本田先輩のおかげでその場は抜け出せたから、とくに変なことはされなかったよ」

 「本田君、…貸しひとつね」

 「いやいや、義妹を助けるのは義兄の務めだから気にしなくていいですよ」


 お姉ちゃんが本田先輩に嫌そうな顔を向ける。対して本田先輩は涼しい顔で答えていた。

 本田先輩には助けて貰ってばかりだからちゃんとお礼をしないとな。今度クッキーでも作ってくるか。よし、そうしよう。


 「会長、私なりに調べてみましたが、やはり東雲さんへの勧誘は日々多くなってきているようですね。運動系・文化系問わずにいろいろな部が東雲さんを部員として確保しようとしています。狙いは部費の確保と東雲さんから会長を通した生徒会への便宜です。それと、東雲さんを部員として迎えることで、東雲さん目当ての生徒を部員として獲得しようとしているのでしょう」


 榊原先輩が席から立ち上がって書類を見ながら僕たちに説明する。

 なんだ、僕への部活の勧誘ってそんなに大事になっているのか?それに僕目当ての生徒って今のところ下心全開の人しか見たことがないんだけど、そんな人たちと一緒に部活をするのはなんかやだな…。


 「ありがとう、やっぴー。ふーむ、やっぱりこの手を使うしかなさそうね」

 「そうですね、東雲さんのためにもこの方が良いでしょう」


 お姉ちゃんが部屋をぐるりと見回した。いつの間にかアカハ先輩も酒井先輩も仕事の手を止めて、席から立ち上がりこちらを見ている。


 「アカハとユッキーは異存ない?」

 「いいよー」

 「元より会長のお考えに異存はありません」


 アカハ先輩と酒井先輩がお姉ちゃんに答える。その様子を見てうんと頷き、今度は本田先輩に顔を向ける。


 「本田君は?」

 「ボクが怜香さんの考えに異論を唱えるとでも?」

 「はぁ、たまには唱えてほしいけどね。…それじゃ反対者はなしね」


 お姉ちゃんが自分の机から立ってスタスタと僕の目の前まで歩いてくる。そして僕の両肩に手を置くと、満面の笑みでこう言った。


 「優、よく聞きなさい。私たち聖エストリア学院第51代生徒会は、東雲優を新たに書記として迎えることにしました。これはお願いじゃなくて、決定事項だからそこのところよろしくね」

 「は、はぁ!?」



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