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第11話

 「あった、あったこれだ」


 僕は平台に積まれている本の中から一冊を手に取った。「あんりみてっどハーレム騎士団」と言うタイトルのライトノベルだ。

 その本を小脇に抱えてから、他のタイトルの本を手にとってはパラパラと読み、面白そうなのがないか見てみる。

 僕の趣味は小説…とは言ってもライトノベルが多いのだけど…を読むことで、月に2~3冊ほど買って読んでいる。

 一冊気になったのがあったので、それを小脇に抱えてた本と合わせて、レジの方へと向かった。


 今日はゴールデンウィークの最終日。僕は久しぶりの休日を楽しんでいた。

 1ヵ月に及んだ女の子としての訓練は多岐にわたり、たしなみとしてお茶やお花、ピアノやバイオリンなどの習い事も一通りやってみた。身についているかどうかは疑問だけど、女の子の仕草や振る舞いなんかは自然にできるようになったと思う。

 あと、1ヵ月の間に女の子としては避けて通れない道…生理も始まってしまった。男の時には想像ができなかった世界で、お姉ちゃんがいなかったらパニック状態になっていたと思う。痛みが一日で終わってくれたのは助かったけど、これが毎月一回来ると思うと憂鬱になるな。


 レジで会計を済ませ、3階のコミックフロアを出て階段を下りる。

 今いるところは僕の住んでいる織姫町から電車で二駅ほど離れたところにある神流市だ。

 街の規模も大きく、長年進めていた再開発の計画が終わったばかりで、駅前には大きなショッピングモールができ、いろいろなお店を見て回れることもあって、買い物をするには便利な街だったりする。

 僕が用があって来たのは、4階建ての大きな本屋さん。

 地元の本屋で手に入らなかった本があったので、少し遠出をしてみたのだ。ここは店員がマニアックなのか、よそではなかなか見られないラインナップの本が揃えてあったりして、意外と掘り出し物が多い。

 遠いからそう頻繁には来られないんだけど。


 今日の僕の服装は、黒と白のボーダー生地のゆるめのトップスと、黒色のチュールのミニスカート。トップスの下からフリフリのチュールスカートがちらりと見える感じだ。

 本を買う予定だったので、ショルダーバッグを肩に下げている。

 何かさっきからチラチラと人に見られている気がするんだけど、変な格好はしてないよね。女の子が萌え系のラノベを買うのを珍しがっているのかな?


 1階に着き、自動ドアを開けて外に出る。日差しが暖かいというより、暑い。

 携帯の時計を見ると14時半過ぎだった。夕飯の買い物があるから16時には織姫町の駅に着きたいけど、まだ1時間ぐらいは余裕がありそうだな。


 そういえば、この近くに美味しいケーキ屋さんがあったっけ。男の時には入りづらかったけど、今の自分なら気兼ねなく入れる!よし、モンブランでも食べに行こう。

 上機嫌でニコニコ顔になり、スキップでもしそうな感じケーキ屋さんに向かう。

 さっきより自分を見ている視線が多くなっている気がするけど、顔がにやけているからかな。いかんいかん、久しぶりのモンブランとはいえ、気を引き締めないと。


 本屋を出た後、ショッピングモールのメインストリートに出て、しばらく駅方向に進んだところの角にその店はあるんだけど、ケーキ屋さんにたどりつく前に若い男性に呼び止められてしまった。


 「彼女、何か楽しいことでもあったのかな?よかったら、俺とお茶でもしないかい?」


 …何で僕が楽しいのとお茶をすることがイコールになるんだろうか。

 訝しげに男性見ると、茶髪で耳にピアスをした背の高い男性が僕をしきりにお茶に誘おうとしている。

 ナンパってやつか。

 地元の町だと商店街でナンパはされたけど、商店街のおじちゃんやおばちゃんたちが追い払ってくれたな。お姉ちゃんが一緒だった時はお姉ちゃんがあしらってくれたし。

 今は自分だけだから、なんとか一人で対処しなくっちゃ。


 「僕、友達と待ち合わせしているんです。ごめんなさい」


 ペコりと男性に頭を下げてその場を離れようとする。男性は僕の行く先を回り込むようにして体で通せんぼをした。

 ゆうはにげだした。しかしまわりこまれてしまった。


 「それじゃ、その友達も一緒でいいからさ。ねっ、ねっ」


 なんですと!友達と一緒でもいいって、なんて節操がないんだ。


 「いえ、困ります…。ごめんなさい、待ち合わせの時間に遅れちゃうので、それじゃ」


 男性を振り切って歩き出そうとする。その瞬間、ぎゅっと男性に腕をつかまれてしまった。振りほどこうとしたが、男性の力が強く振りほどくことができない。


 「おっと、もう少しお話してくれないかな。そうだ、待ち合わせ場所まで送ってあげるよ。悪い人に絡まれるかもしれないからね」


 絡んでいる悪い人はお前だ!うう、しつこい人だな。ナンパってこんなしつこいんだっけ?

 腕から手を離してくれるように頼んでも聞いちゃいない。

 しかも話しながら胸とか太ももとかジロジロ見てくるし…。きもちわるい。


 ここは実力行使しかないな。早くしないとモンブランを食べる時間がなくなっちゃう。パトリオットミサイルキックは腕をつかまれているし、パンツが見えるから却下。この体制ならアームロックがちょうどいいか。


 「待ち合わせ場所は駅かな?それじゃ連れて行ってあげるから行こうか」


 考え込んで無言になっていた僕をいいように解釈したのか、男性が僕を引っ張ってどこかに連れて行こうとする。

 仕掛けるなら今だな。そう思っていたら、僕をつかむ茶髪の男性の腕をさらに誰かがつかんだ。


 「痛っ!」


 つかまれた腕が痛いのか、僕の腕をつかんでいた力が弱まったので、手を振りほどいて茶髪の男性から離れる。

 誰かが茶髪の男性の腕をつかんだまま、僕を背にかばう形で茶髪の男性と僕の間に入ってきた。


 「こいつは俺の連れなんだが」


 どこか聞き覚えのある声がして、その誰かの顔を後ろから覗いてみる。

 くせの無い綺麗に整えられた黒髪。切れ長の目に黒縁の眼鏡。無愛想な顔にぶっきらぼうな物言い。それはついこの間まで見慣れていた顔だった。


 「ケースケ?」


 僕の言葉に振り返ったのは僕の三人の親友の最後の一人、前田慶介だった。



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