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63『誘拐屋』

 急ぎ足のフランクについていくために、小走りで後を追っていたアンナリーナが矢継ぎ早に質問を飛ばす。


「それよりマチルダさんたち、皆はどうしているの?

 ……私も奴隷商人に売られちゃうの?」


 アンナリーナの、不安に満ちた、震える声。

 フランクは即座に否定した。


「リーナ、何を馬鹿な事を……

 他の者はともかく、リーナは招かれたんだ。丁重に扱われるよ」


「じゃあ、マチルダさんたちは?

 やっぱり売られちゃうんでしょ?」


 急に立ち止まったフランクがアンナリーナの元に戻ってくる。

 そしてゆっくりと口を開いた。


「リーナ、俺たちは山賊であって盗賊ではない。

 それも “ 誘拐屋 ”だ。

 問答無用で売ったりしない」


「“ 誘拐屋 ”って何?

 やっぱり、奴隷商人に売るのね」


 フランクはそれからまず “ 誘拐屋 ”の説明からはじめた。

 アンナリーナの知識の中にある盗賊は馬車や旅人を襲い、拉致した人間や荷物を売り払い、利益を得る。

 対して山賊、それも誘拐屋と呼ばれる者たちは拉致するまでは同じだが、その時もなるべく殺さず、家族や縁者と連絡を取り、身代金と引き換えに身柄を解放するのだ。


「何でそれで捕まらないのか、よくわからないわ」


「そうだな。

 必要悪だと認識されてるんだろうな。

 ……俺たちは魔獣も退治する。

 俺たちが拉致した人達は金と引き換えに、絶対に無事に送り届ける……保険みたいなものだと思われてるんじゃね?」


「え? 乗り合い馬車って、そんなに危険なの?」


「馬車の旅で、距離にもよるが……5日以上なら6〜7割、10日以上の旅になると5割を切るな。

 無事に目的地に到着するのは」


「へええぇーっ?!」


 まさか旅が、そんなにも危険なものだとは、思ってもみなかったアンナリーナだ。


「今回のお客はほとんどが奴隷落ちしないだろう……

 あの測量士は貴族だ。

 キャサリンとロバート夫婦は嫁さんの方が大きな商家の娘っぽいな。

 マチルダさんは店じまいした大店の未亡人ってとこかなぁ。大して違ってないと思うぜ?

 キンキとジンガは残念ながら……ってところだが、あいつらにとってもそう悪い話じゃないと思うね」


「何でよ?」


「あの2人は元鉱夫だろ?

 慣れない町で、借金をこさえながら職を探すより、奴隷として鉱山に買われて行って、自分を買い戻す方がよっぽどマシだと思うぜ?

 衣食住は保証されるんだし」


 そんな考え方もあるのかと、アンナリーナは目から鱗である。

 そしてこの世界が思っていたよりも優しくない世界であるという事をひしひしと感じた。



 フランクに案内されていった部屋は、先ほどとは違った場所だった。

 そこにはザルバとゲルトも顔を揃えている。


「ええっと、どこからって言うか、何から話したらいいかな?」


 アンナリーナは勧められる前にさっさと腰を下ろし、バッグから茶器を取り出していた。


「ん〜 茶葉は、ちょっとリラックスしたいからハーブ茶……ラベンダーにしようか」


 茶器はジャマーでも見た事がないほど精巧なガラス製で、そこに無造作にラベンダーの花を入れて、湯を注ぐ。

 そこに角砂糖も出して、抽出できるまで待つ。


「嬢ちゃん、その砂糖……」


 ゲルトは以前から角砂糖に並々ならぬ感心を持っているようだ。

 今も目が爛々と輝いている。


「ああ、前に約束してたね。

 今度用意しといたげるね。

 今日のところはこの残り、持って帰っていいよ」


 これにジャマーが食いついた。


「薬師殿、こんな高価なものをそんなに簡単に!」


 アンナリーナは首を傾げた。

 彼女にとって砂糖など簡単に手に入る、その程度のものだ。

 たとえ、この世界では固形に成型する術を持たなくても。


「お茶を頂きながら、お話しましょう。お砂糖は好きなだけ使ってね」


 丸みを帯びたティーカップに砂糖を1つ落とす。

 一切歪みのないガラスの器を皿ごと持ち上げ、一口含んで微笑む。


「さて、マリアさんのお話をしましょうか」



 ジャマーの表情が引き締まり、アンナリーナの言葉を待っている。


「さっき診察させてもらって、今わかっている事だけ、お話しさせて頂きますね。

 マリアさんは今夜、発熱します。

 もう扁桃腺が腫れてきていて、ふつうの食べ物は飲み込みにくいでしょうね。この後何か見繕って見ますが……。

 それから、さっき雪が降るっておっしゃったけど、この辺りも降るのですか?そして、かなり冷える?」


「また、熱が出るのか……

 薬師殿、どうかマリアをよろしくお願いします」


 大男が巨体を丸めて頭を下げる。


「出来るだけの事はさせて頂きますね。それでですね、今夜の天候は?」


「こちらまで雪が回ってくることはないと思う。

 風向きから言って、間違いない。

 ただ今夜はかなり冷えるだろうな。

 さすがに氷は張らんと思うが」


「だって今は初夏だよ?異常気象なの?」


 このあたりは標高が高いからたまにあるんだ。それが何か?」


 アンナリーナは溜息を吐いた。


「あのね、言いにくいけど……

 まず、この洞窟と言う環境、マリアさんにとって最悪です。

 気管支はまださほど弱っていないから大事には至ってないけど……簡単に言うと換気が出来なくて空気が汚れちゃうの。身体に悪いばい菌もそのままで、悪循環なのよね」


 ちんぷんかんぷんである。


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