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42『フランクの恋?と胡椒もどき』

 “ 今朝は、調合に手間取ったから手のかからないスープにしたの ”なんて言って笑うアンナリーナをフランクは茫然と見つめていた。


『絶対っ、嫁に欲しい!

 無理だってわかっていても諦めきれねえ』


 ギリギリと歯噛みしながら、それでもフォークを持つ手は止まらない。



「あ、さっきのお香があるって言っても、索敵の手を抜いちゃダメだよ」


「なんでだよ?」


「だって馬はカバーしてないし、第一、物理的な攻撃には効かないよ?ゴブリンやオークの持つ武器の事ね?」


 楽をしようと思っていたのか、フランクが口を尖らせているがアンナリーナは気にしない。


「さて、ちょっとイゴルさんとこに行って来るかな。フランク行くよ」


 今朝も下僕のフランクを連れ、村道を行く。

 まだまだ食べようとしていたフランクは不満そうだ。


「そんな顔しないで。

 ほら、これあげるから」


 色鮮やかなピンク色のパン?を渡されてフランクは訝しげだ。

 だがそれもパンに嚙りつくまで。


「なんだこれ!?美味え!」


 ガツガツと、あっという間に食べ終わってしまったのはピンク甘藷の捻りパンだ。


「甘くて美味しいでしょ?

 ピンク甘藷と砂糖をたーっぷり使ったもん。ほらもう一個」


 もうフランクの背後には、凄い勢いで振られる犬の尻尾が見える気がする。

 夢中で食べる、その微笑ましいさまを口許を緩めながら見ていて、その時突然頭の中に声が響いた。


『おはようございます、主人様。

 お尋ね致しますが、空間接続や転移の使い勝手はいかがでしたか?』


『ナビ、おはよう。

 ありがとう、昨夜テントからツリーハウスにまるで部屋を移るように行けたのも、今朝あらかじめ設定しておいた場所に転移出来たのもとても良かったわ。

 これでこれからはテントや宿の部屋とツリーハウスを繋いで、調合や料理が出来るようになって、便利になる』


『そうですね。

 気配察知や危機察知の感度を上げておけば、一晩中離れていても問題なくなるかもしれませんよ。

 入浴や就寝もツリーハウスの方で執れるようになります』


『それ!いいね!』


 アンナリーナが表情を変えずにひとり盛り上がっているところを訝しげなフランクに声をかけられた。


「リーナ、黙り込んでどうした?」


「ああ、ごめん。

 私、馬車の旅って初めてだから楽しみで……色々考えちゃった」


 えへへ……と笑うアンナリーナを見て、年相応なところもあるのだと眉尻を下げる。

 あっさり騙されるフランク……アンナリーナにハートも胃袋も掴まれているとはいえ、もっとしっかりした方がいい。



 イゴル精肉店でアンナリーナは、びっくりするような量のソーセージを受け取り、対価に金貨2枚と見た目貧相な木の根を渡して話し始めた。


「これは森に行けば結構生えている木の根なんだけど……乾かしたのがこれなの、嗅いでみて?」


 干からびた根っこを嗅いだイゴルの目が見開かれる。


「嬢ちゃん、これ!」


「乾燥させた根を細かく挽くと胡椒に似た香りを出すの。

 私たち薬師は【胡椒の劣化版】って呼ぶんだけど……もちろん、本物と違って香りが似てるだけ。

 でも、ソーセージ作りには使えるでしょ?」


 木の特徴を書いた紙を渡して、挨拶を交わす。

 でも、本当のサヨナラではない。

 アンナリーナは先日ツリーハウスを出した場所に転移点を残していた。


『イゴルさんのソーセージは、これっきりサヨナラするのには惜しすぎるのよね。また、ちょくちょく買いに来たいし』


「絶対にまた来ます」


 そう言ってアンナリーナは精肉店を後にした。

 その様子を見ていたフランクの方がしんみりして……笑ってしまう。


「ほらほら、そんな顔しないの。

 今夜の夕食はさっきのソーセージをボイルするよ。

 スモークソーセージとはまた違って美味しいよ」


 すっかりアンナリーナの作る料理の虜となったフランクが涎を垂らさんばかりに見つめてくる。

 そんなフランクを急かして通りかかったのはギルド出張所兼宿屋の前。

 そこには荷物を積めるだけ積んだ、という様相の馬車が止められている。


「うわぁ……凄いね」


「リーナ、行くぞ」


 思わず立ち止まって見入ってしまったアンナリーナをフランクが引っ張る。



 その後、空き地の馬車の元に戻ったアンナリーナは、この村の牧場主から新鮮なミルクやバターを押し売りされたり、見送りに来てくれた農家の皆さんに採れたての葉物野菜(ほうれん草に似ている?)をいただいたりして過ごした。

 そして、場所を宿屋の前に移す。


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