326『公爵家との別れ』
最後になった書庫では、ていねいに確かめながら木箱に収めていく。
やはり大陸が違うと植生も変わるようで、色々なレシピで薬草などが違う。
「これは……全部欲しいわね。
とりあえず、公爵様に一言断ってからの方が良さそう。
ジョンソンさん、数を数えておいて下さいね」
慎重に箱詰めしながら書庫を動き回る。そしてある場所でそれを見つけた。
「隠し扉の入り口?
この本棚を動かせば部屋があるようです」
「なぜそんな事がわかるのです?」
ジョンソンはあたりを調べて回り、よくわからなかったのか不思議そうだ」
「私の師匠の薬師様の書庫とよく似てるわ。
それにお年を召した薬師殿としては本が新しいし、少なすぎる」
あちこち触っていたアンナリーナが、ある一点を引くと本棚が動き出し、奥に続く入り口が現れた。
「ほら、見つけた。
ジョンソンさんも立ち会って下さいね。危険はありませんから」
【ライト】で灯りを着けると、アンナリーナはスタスタと中に進んでいく。
そしてその古書の数々の素晴らしさに溜息を吐いた。
「何て素敵なの!」
はっきり言ってジョンソンには、何がそれほど素晴らしいのかまったくわからない。
元々頭を使う事が苦手で兵士になったのだ。ジョンソンにとって本などは現実と正対するものだろう。
「薬師殿はやはりかなり勉強なさったのですか?」
「う〜ん、私は師匠に教わりながら作ったのが多かったかな。
本を読むのは元々好きだったから、師匠から受け継いでから貪るように読んだわ」
どこが楽しいのかジョンソンには理解できないが、この場の本が薬師殿にとって大切なのはわかった。
慎重な手つきで入れていく木箱の数を頭の中でカウントした。
結果、薬師庵のアンナリーナが希望するものはすべて彼女のものとなった。
そのかわり、ジャクリーヌの滋養に良い薬湯や茶のレシピを残す事になった。
身体が脆弱なのは変わりないので、徐々に体力を付ける事が必要だ。
「なるべく早く代わりの薬師を雇うつもりだ。
リーナ殿、世話になったな」
ソファーに座る老公爵の横には、身体を締め付けないデザインのドレスを着たジャクリーヌがいる。
「いいえ、こちらこそ公爵様には過分の報酬を頂きました。
ジャクリーヌ様、これからは何でもお好きな事が出来ますよ。
でも欲張りすぎて公爵様を心配させないでくださいね。
それからこれは、私からの本復のお祝いです」
アンナリーナの手でインベントリから取り出されたのは、見事な薔薇色のアラクネ絹の反物だ。
「これで作ったドレスを着て、公爵様にエスコートしていただいてパーティを楽しんで下さい」
ジャクリーヌの目が、少女らしい喜びに輝く。
「ではダンスのレッスンの相手も務めようかな?」
すっかり上機嫌の老公爵は嬉しそうに頷いた。




