323『毒入り茶を飲ませた男』
筆頭執事は部屋に飛び込んで来てすぐにジャクリーヌと、彼女が突っ伏している側にあった茶器を鑑定していた。
すでにジャクリーヌには解毒の処置が行われ、顔色は悪いが命に関わる状態ではない。
だが、問題は茶器の方だ。
『クグトリスの毒素(微量)、セギソリ、ルベナ、オメガ草』
ジャクリーヌがいつも飲んでいる薬草茶から猛毒のクグトリスが出たのだ。
いつも表情を変えない筆頭執事の片眉が上がる。
そして同じ結論に至っているだろうアンナリーナに目配せし、ジャクリーヌを抱き上げた。
側でヤーコブが何か喚いているが知った事ではない。
ようやく席を外していた老公爵が駆け込んで来て、詮議が始まる。
いくらヤーコブが、真犯人はそこにいる女だと主張しても聞き入れられる事はない。反対に、公爵家の護衛たちに取り押さえられてしまった。
「此度の件は一体どういう事なのか説明してもらおうか」
老公爵の口調はていねいだが、今にも爆発しそうな怒りも孕んでいる。
その怒りは、今はヤーコブ1人に向いており、彼の旗色は悪い。
「こ、公爵閣下、私はこの女を告発致します。
この女はジャクリーヌ様におかしな薬を飲ませたのに違いありません」
「リーナ殿、こちらはこう言っているが、どうじゃ?」
「おかしな薬と言われても、アムリタ以外では何も処方してませんよ」
「えっ?」
「だって、ジャクリーヌ様が今まで飲んでいらした薬湯が凄すぎて、薬師の方と相談してから処方を考えようと思ってましたから」
それなのに……残念です、と続けられ、ヤーコブはその場に崩れ落ちた。
すべて一人芝居だったと笑いがこみ上げてくる。
「どうしてこのような事をしでかしたのかわからんが、このまま何もなかった事には出来ぬ。
ジャクリーヌにした事は許せる事ではない」
うな垂れたヤーコブが公爵家の私兵に連れて行かれる。
この後彼に課せられるのは悲惨としか言えない事なのだろう。
何と馬鹿なのか……
「公爵様、私はジャクリーヌ様の様子を見てきます。
すぐに魔法で解毒したのでそれほど影響はないと思いますが、念のために解毒ポーションを飲んでいただこうと思っています。
それから数日、経過観察させて下さい」
心配なのは元々弱っていた体力と、肝臓だ。
中でも肝臓は解毒をする臓器なので、これからダメージが来る可能性がある。なので解毒ポーションの匙加減も重要だ。
この一件で出立日が延びたが些細な事だ。
アンナリーナはその気になれば、ツリーハウス経由で首都の学院に戻る事ができるし、大陸さえ飛び越えることが出来るのだから。




