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312『ジャクリーヌ』

 もう深夜に近い時間だが、老公爵は迷わず孫娘の部屋に向かった。


「こんな時間によろしいのですか?」


「眠りを深める薬を飲んでいる。

 少し触ったぐらいでは目を覚まさない」


 アンナリーナは頷いてベッドに近づいた。

 そこにはとても12才には見えない……7〜8才にしか見えない少女が眠っていた。

 淡い金髪の少女、ジャクリーヌ。

 アンナリーナが灯した【ライト】の淡い光に照らされた顔は蝋のように白い。


「【解析】」


 少女の夜具にさえ触れる事なく、アンナリーナは【解析】でスキャンする。

 ジャクリーヌの見た目だけでアンナリーナはまずは心肺の病気を疑った。


『多分、このあたり……やっぱり』


 アンナリーナは小さく息を吐いて老公爵に向き直った。


「公爵様、場所を変えましょうか」


 そのまま、老公爵を待たずにそそくさと部屋を出てしまう。

 慌てて後を追った老公爵は、アンナリーナの様子に肝を冷やしていた。


「たとえ聞こえてないとわかっていても、患者さんの前で容態について話すのはちょっと」


 苦笑いを浮かべたアンナリーナは老公爵の隣に座り、手を取った。


「ジャクリーヌ様の心臓に穴が空いてます。

 明日、もう一度全身をスキャンして、異常がなければ【劣化版アムリタ】を使いましょう」


「何と!

 さすれば明日には治るという事か?!」


「お待ち下さい」


 小躍りせんばかりに喜ぶ老公爵を、アンナリーナは静かに諌めた。


「公爵様、落ち着いて下さい。

 まだ不安定要素は払拭されていません。

【劣化版アムリタ】は決して万能ではありません。

 私自身、この薬がどの程度病気に効くかわからないのです。

 ただ、もしジャクリーヌ様の病気が心臓だけなら完治する可能性は高いと思います」


「リーナ殿、それでもだ。

 ありがとう、ありがとう」


 普段は慇懃な老公爵の目から涙がこぼれ落ちる。


「公爵様、まだ早いって〜」


 自分の倍はあるだろう厚みのある身体を、目一杯力を込めて抱きしめたアンナリーナはゆっくりと話しかける。


「今日はもう休んで下さい。

 公爵様が体調を崩しては何にもなりませんよ」


 すべては明朝だ。


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