311『約束』
公爵だけでなく随行の一行まで、十分なもてなしを受け、その夜は更けていった。
そんな中、アンナリーナと老公爵はこれからの事を話し合っていた。
まずは孫娘、ジャクリーヌの治療について。
「先ほども申し上げたように、一度診察してみないとなんとも言えないので、一日も早く彼女の元に行く事がネックとなります」
おそらく4日後には到着するだろう老公爵の領地……静養している本宅は王都より北に位置するようだ。
「それと、下世話な話ですが……【劣化版アムリタ】の御足に関する事なのですが」
「おお、それは大事じゃな。
それでリーナ殿、いかほど支払えば良いだろうか?」
「……先だってのオークションを無視するわけにはいきませんので、同額……と言いたいところなのですが、実は私は、お金よりも欲しいものがあるのですよ」
「それは儂に用意出来るものだろうか?」
アンナリーナはずい、と身を乗り出し、言う。
「【浮島】はご存知ですよね?
私、それが欲しいのです」
老公爵はびっくり、というか困惑を隠せない。
「【浮島】とは空に浮いているだけの、何の用途もないものだぞ?」
「それって動かす事は可能ですよね?」
「まあ、そうだな。
あちらにふらふら、こちらにふらふら動いているな。
だが不思議な事にどこかに行ってしまう事はないのだ」
「その【浮島】を私に譲ってもらえませんか?
【劣化版アムリタ】と交換、と言うことで」
老公爵は重ねてびっくりである。
彼にとって【浮島】は何の価値もない、ただ空に浮かんでいる風景である。そんなもので対価になるのか?
困惑がパニックに変わりそうになる。
「別に他意はありませんよ。
私は【浮島】を手に入れたい。
公爵様はお孫さんの病気を治したい。
双方の思惑が一致したのです。
如何でしょうか?」
老公爵としてはまだ猜疑心があったが、ここは口約束だが申し入れを受ける事にする。
「では、よろしくお願いする」
老公爵はアンナリーナの小さな手を握り、目を潤ませた。
2日後の夜、老公爵とアンナリーナは無事、テラシォン公爵領に入った。
ここまで来るまでに宿に泊まるのをやめ、野営する事で最短コースを飛んできた。今日に至っては老公爵と従者のひとりをセトで運んで来たのだ。
旅程は約1日短縮され、今彼らは公爵邸の前庭に降り立っている。
「では公爵様、お孫さんのところに参りましょうか。
【洗浄】」




