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296『イェルハルドとオークの角煮』

「今回は採取もしながら、それなりにゆっくり行くよ」


 ダンジョンの1階層、門のような入り口を入ったところでアンナリーナはテオドールたちにそう言った。


「マスター、俺はずっと一緒にいていいのか?」


 通常では顕現し難いイェルハルドもダンジョンでは遠慮なく姿を現して居られる。


「そうね、もう少し下に降りたらずっと顕現してていいよ。

 今夜は一緒にご飯食べよう」


「やったね!

 俺、マスターたちの食事大好き!」


 ふわふわと浮いていたイェルハルドが突然姿を消した。

 どうやら冒険者パーティーがひと組、ダンジョンに入ってきたようだ。


「では、私たちも出発しようか」


 浅い階層では魔獣も素材も大したものは出ない。

 50階層まではノンストップ。

 それからはイェルハルドから薬草などの見分け方を教わりながら、今夜の野営地として53階層の草原を選んだ。



「何か、ダンジョンのなかとは思えない豪華さですよね」


 アンナリーナは例えダンジョンと言えども、余裕がある場合は手を抜かない。

 馬車の周りを二重の結界で囲み、テーブルと椅子を並べた。

 そこにツリーハウスからアンソニーが出張してきて肉を焼き始める。


「今夜のメインは、以前デラガルサで狩ったオークジェネラルのお肉です。

 アンソニーが色々な種類に料理してくれるので楽しみにしていて下さいね」


 すでにテーブルには角煮が供されている。

 この見たことのない料理にイェルハルドは興味津々だ。


「これは何?

 これ……嗅いだ事はないけど、凄く食欲をそそるいい匂いがするよ」


 ソワソワと周りを飛びまわるイェルハルドに精霊王の威厳はない。


「これはね、私の師匠の故郷の料理でね【角煮】って言うんだよ。

 豚のバラ肉で作るんだけど、この脂身の部分がトロトロになってね、堪んないの。それと辛子は必須です」


 ナイフを使わずにフォークだけでするりと切り分けられる。

 少量の辛子をのせて口許に運んでやると、彼は自然に口を開いた。


「なに、これ……」


 口の中で蕩けてしまった角煮を悲しそうに思い出し、アンナリーナを見つめた。


「たくさんあるからいくらでも食べたらいいよ。

 でも、他の料理も食べられるように加減してね」


 すでにアンソニーが串焼きを焼き始めている。

 定番のこの料理は、アンナリーナの前世での醤油ダレをつけて焼かれている。

 あとは定番のとんかつ。

【異世界買物】で購入したキムチを使った豚キムチ。

 ご飯もたっぷりと炊かれ、野菜を用いた副菜もバラエティーに富んでいた。


「マスター、この白っぽいひょろっとしたのはなに?」


「あ〜 それは “ もやし ”だね。

 シャキっとして美味しいでしょ?」


 ニラや玉ねぎなどと共に、一度素揚げしたレバーと炒めたレバニラ炒め。

 大量に用意された生野菜、特にキャベツの千切りは味の濃い料理と共にあっという間に量を減らしていった。


「明日のためにたっぷり食べてね」


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