292『水竜の競り』
「さて、皆様お待ちかねの、本日のメインイベント!
【水竜】です!!」
直前に下されていた緞帳が上げられ、その巨大な姿を見た顧客たちは、わかってはいたが感嘆の声を上げるしかない。
アンナリーナが、屠った直後にインベントリに収納した水竜はまったく劣化せず、その艶やかな水色の体は瑞々しいままだ。
今にも目を開け、起き上がってきそうなその姿には溜息しか出ない。
今日この会場に、この水竜だけを目当てにしてやってきた顧客とその代理人に気合いが入る。
そして、会場が騒めく中、エッケハルトが両手を広げて芝居掛かった仕草で語りかけた。
「ダンジョンの奥深くに、人知れず生息していた【水竜】
我々は、この竜が生きていた時と寸分違わぬ姿をこの目で今、見る事が出来ているのです!!
さあ、鑑定して下さい。
そして皆で、この竜の真の価値を思い知ろうではありませんか!」
「おお〜 煽ってる、煽ってる」
この直前に水竜をインベントリから出し、劣化防止の結界の準備をして、ステージの袖で待機していたアンナリーナは、エッケハルトのその様子を見て軽く口笛を鳴らした。
「十分鑑定されましたか?
では競りの前に劣化防止の結界を張ります」
まるで指揮者が指揮棒を振り上げるように動かされた腕が合図となって、アンナリーナは結界を発動させた。
この度開発した結界石から、いくつかの魔法陣のエフェクトが光り、水竜の体に馴染んでいく。
ちなみにこの結界は時間停止と劣化防止に特化した結界で、物理的接触を防ぐ事は出来ない。
「この結界で守られたまま、競り落として頂いた方にお渡しします。
では皆様お待ちかねの競りを始めましょう。
このドラゴンはオークションカタログにも記載した通り、白金貨100枚から始めさせて頂きます。
では、白金貨100枚!」
このドラゴン(水竜)の競りに限ったことではないが、今回のオークションは即日現金払いである。
たとえ国が相手だとしても小切手や手形の類は一切受け付けない。
そう、ニコニコ現金払いなのだ。
それゆえ、今回一番たくさん金をかき集めてきたものが勝者となる。
「1000!」
「おおっと、一気に上がりました!
今回は小手先の児戯はありません!
これは存外早く決着がつくか!!」
「2000!」
「はてさて、ご存知でしょうね。
これは “ 白金貨 ”の枚数です」
「3000!」
「5000」
こうなったら駆け引きも何もない。
完全な力業だ。
「7000!」
「8000」
「10000!!」
ここで3人を残して他の代理人たちは競りを降りた。
ここからは誰が一番資金力があるか。この場に持参してきているか、それだけだ。
「さて、また桁が上がりましたね。
どこまで行くのでしょう!?」
「こいつは何て……」
テオドールも言葉が出てこない。
確かにドラゴンは貴重だが常識から言ってこれほど高騰するとは信じられなかった。




