287『金を産む雌鳥』
「リーナ様っ!
これは! こんなカットは見たことがない!!」
「これは私の故郷で行われている特殊なカットです。
ほとんど持ち出してませんから、ご存知なくて当たり前です。
勿論、この大陸では初めてですわ。
……どうでしょう?オークションに出品できるかしら」
「こんな素晴らしいものを?
本当によろしいのですか?」
アンナリーナにとっては【異世界買物】で簡単に購入できるものだ。
「いいですよ?
このくらいならなんとでもなりますし。
……そうだ! とっておきがあります」
自身のドラゴンがメインのオークションだ。いくらでも協力しよう。
アンナリーナが再びアイテムバッグから取り出したのは、一本のガラスの瓶だ。
「その魔導具で鑑定してみて下さい」
机の上に置かれた瓶には薄い水色の液体が入っている。
エッケハルトはまたモノクルをつけて瓶を手にした。
「!! これはっ!」
【劣化版アムリタ】
劣化版と付くが、あの伝説の秘薬であるアムリタだ。
遥かな古代、死者すらも甦らせると言われた特別なポーションだ。
「これは……一体どこで?」
震える声に震える手。
もちろんドラゴンやダイヤモンドのネックレスも凄いが、ある意味このアムリタはそれ以上だ。
「言ってなかったと思いますが、私の職種は【薬師】なんです。
この劣化版アムリタも私が作ったんですよ」
「リーナ様は【薬師】?」
エッケハルトの、信じられないものを見た、と言う表情でこの大陸でも薬師というのは珍しい職種だと言うのがわかった。
こちらでも薬草などを作って家庭薬のようなものを作る薬屋はいるが、より上位の薬師は少ないようだ。
「元々こちらには珍しい素材を求めてやって来たんですよ。
色々あってまだ進んでませんけどね」
屈託なく笑うアンナリーナは、金を産む雌鳥に等しい。
エッケハルトはこの稀有な少女をどうやって守るか、考えを巡らせる。
「うふふ、だからこうして……」
アンナリーナはそれを見越したように、後ろにいるテオドールを振り返る。
「常に護衛を連れて歩いているのですよ」
「では、大丈夫ですか?
学院の方にも、手のものを配置しましょうか?」
知らなかったとはいえ、今まで放置していたなど何と無責任な事をしていたのだと、エッケハルトは真っ青になった。
「それこそ大丈夫です。
私は教授棟の居住区に住んでますし、あまり授業にも出ないので」
「リーナ様、くれぐれも、くれぐれも御身を大切に」
何を大袈裟な、とアンナリーナは笑う。
「大袈裟ではありませんよ、リーナ様。この事を知っているのはどのくらい居ますか?」
「さほど多くないです。
学院側は学院長と事務総長、それと薬学科の教授くらいです。
あとギルド関係では副ギルドマスターとか……こちらの大陸の人達に私の作ったポーションが効くか調査していたので、あまり流通させてなかったのですよ」
あ!とアンナリーナが何かを思い出したように声を上げた。
「ちょっと面白い商品があるのですよ。
どっちに入れてたかな〜」
アイテムバッグをゴソゴソ探り、アイテムバッグからもうひとつアイテムバッグを取り出してそこから瓶を取り出した。
磨りガラスの瓶に入ったその液体は、わずかにクリーム色掛かっているようだ。
「ジャンジャーン!
リーナ特製【強壮剤X】です。
これは子宝を授かるタイプの薬ではなく、男性が萎える事なく一晩中」
「リーナ!」
聞いてられない言葉が流れ出し、テオドールが慌てて口を塞いだ。
だがその手を振りほどき、続ける。
「とにかく凄い強壮剤なんです。
何十年も勃起不全だった爺様もオッケーです。
私の自信作ですよ!」
テオドールは目を瞑る。
アンナリーナには慎みが必要なようだ。




