282『アンナリーナの夢』
入学式が終わり、早10日。
新入生の間では奇妙な学生の噂が広まり始めた。
「滅多に授業を受けない、ごく僅かに受講する、変わった二人連れ?」
ほとんどが貴族の子女である、この魔導学院の生徒には、入学前から貴族としての序列があって、僅か10日でほぼ派閥が構成されていた。
そのいくつかのグループの間では、アンナリーナたちの噂で持ち切りであった。
「となりの大陸からみえた、特別留学生と聞きましたが?」
「仮面をつけた男は令嬢の従者を兼ねていると聞きました。
おふたりとも国では有数の魔法使いだとか」
「私は、令嬢は薬師だと聞きましたよ」
アンナリーナと同期で入学した王族……現国王の孫や甥を中心に集まるサロンで、取り巻きの貴族子弟が集めてきた情報を披露していた。
「あの方は貴族ではないと聞き及んでおりますが、某国の王から入内を望まれたそうです……どうやら逃げてしまわれたそうですが」
王孫殿下である、今報告を受けていた王子がなんとも言えない顔をしている。
彼や貴族にとって王命とは絶対で、否と言うのは有り得ず……それは死を伴っても文句が言えないもの。
それをあっさり袖にして、言葉は悪いがトンズラとは。
「かの方は冒険者の資格を持っていて、国の縛りは受けないのでしょう。
それと、これは重要な事なのですが」
「何だ。もったいぶらず、早く言え」
現宰相の曾孫が王子に促される。
その場に集う、少年たちにも無言の圧力を受けた。
「かの方は “ 既婚者 ”です」
「ちょっと待て。
彼女はエルフなのか?」
どう見ても少女にしか見えないアンナリーナを思い出し、王子は困惑した。
見かけ通りの年齢でないエルフかと思ったがどうやら違うらしい。
「彼女はヒト族ですよ。
我々とは違う成り立ちのヒト族かもしれないですが」
「ふうん、どちらにしても興味深い令嬢だな。一度話してみたい」
「彼女らはほとんどの時間を教授棟で過ごしているので難しいですが、伝手を使ってなんとかしてみます」
部屋を調え、学院生活を整えて、アンナリーナの2つの大陸での二重生活が始まった。
教授棟の部屋で生活しているように見せて、ツリーハウスで暮らしている。
そんなアンナリーナが今取り組んでいるのは先日話していた【攻撃型魔導具】だ。
これは単純に付与すれば良いわけでなく、中々難しい。
アンナリーナの作業台には失敗作の魔石やオーブが、すでに積み重なっている。
そして片やネロと言えば、魔獣の森にアンデッドのコロニーを作り、着々と戦力を整えている。
先日の【迷宮都市】のダンジョンで屠ってきた魔獣もアンデッドにした。
あの町にも拠点を作って、本格的に攻略したいと思っている。
「あのね、私の夢はね。
浮島を手に入れて私たちの国を作る事なの。
私たち家族と召喚獣も、アンデッドも一緒に暮らす大きなお家」
アンナリーナがいつか語った夢を目指して、ネロは動き始めている。




