261『迷宮都市に到着』
とっくに陽が暮れた闇の中、魔導ランタンの灯りを頼りに山中の街道をひた走るジャバハと、騎乗しているアンナリーナ。
今夜は水の代わりにポーションを飲んでいるジャバハに、徹夜で走行することを強いていた。
「ごめんね。今夜だけだから頑張って」
夜中に近いと言うのに、ギャロップで走るジャバハの鬣を撫でると、ヒンと返答してくれる。
この8日間で強い絆を結んだアンナリーナは、この旅が終わりを迎えても手放すつもりはなかった。
「マスター!
ようやく魔素が戻ったぞ!!」
突然姿を顕現させたイェルハルドが浮遊しながらついてくる。
その言葉を聞いてアンナリーナは、その身体から余分な力が抜けていくのを感じていた。
「はあ〜」
アンナリーナの様子がわかったのだろう、ジャバハがだんだんと速度を緩めていく。
「もう国境は越えたから、ひと休みしてもいいと思う」
イェルハルドの提案は魅力的だったけれど、ここで休んでしまえば動けなくなりそうだ。
アンナリーナはかぶりを振って、ジャバハの首筋を撫でた。
そして走り続ける。
「着いた〜」
目の前にそびえる外壁は、今まで見てきたものすべてよりも頑強である。
そして早朝であるにもかかわらず、その入街門には列が出来ていて、堀にかかった跳ね橋が降りてくるのを待っていた。
「ようこそ迷宮都市メコンナントへ」
「迷宮都市?」
聞きなれない言葉に、アンナリーナは首を傾げた。
「おや? お嬢さん、この町がどんな町か知らなかったのかい?」
アンナリーナはギルドカードを提示して審査を受ける。
「あの、私……今朝方ようやく国越えしてきて、この町の事は何も」
「国越え? それは大変だ。
ちょっとこちらに来てくれるかな」
いつものように詰所に案内されて、アンナリーナは腰を下ろす。
「馬はちゃんと面倒を見るから安心してくれ。
それとそんなに警戒しなくていい。
少し話を聞きたいだけだから」
いかつい顔をした兵士が笑みを浮かべて、陶器のカップを差し出す。
アンナリーナはその、色だけついた出涸らしの茶を形だけ口にした。
「さて、お嬢さんは魔人領の冒険者ギルド発行のカードを持っていたよね?
それがどうして【取り残された地】に?」
魔人領はこの地からかなり離れている。そんなところからどうしてやって来たのか……疑問だった。
「トラップに飛ばされたんです。
気づいたら森の中でした」
「森? それは大森林か?」
「多分、森から出るのに50日くらいかかりました」
兵士が瞠目する。
彼自身は行ったことはないが、彼の地の大森林は飛び抜けて強力な魔獣はいないが、代わりに “ 獣 ”がいる。
その、予想外に強靭な生物はある意味魔獣よりも討伐しにくいと兵士たちは思っている。
その大森林を抜けてきた?
アンナリーナはそのあと、村や町での決して愉快ではなかったエピソードの数々を披露した。
「ところで【迷宮都市】とは何ですか?」
「メコンナントはダンジョンを中心として出来上がり、発展してきた町だ」
「ダンジョン……が、町の中にあるのですか?」
アンナリーナが知る限り、そのような町は他にない。
前世で読んだラノベにはよくあった設定だが。
「この町の中心にダンジョンの入り口があって、第一の壁の間にダンジョンに潜る冒険者のための前線基地がある。ここは彼らのための店が大部分で、長期滞在用の宿もある。
第一の壁と第二の壁の間は職人の工房やその住居が多い」
どうやらアンナリーナの知る、ラノベの迷宮都市と変わりないようだ。




