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260『最後の町を通過』

 ジャバハとの旅は快適だった。

 それは彼が初日から懐いてくれたのが大きかった。

 ジャバハは農耕馬である。

 毎日畑を耕し、物資を運搬し、たまに馬車を曳く。

 そんな生活をしていたジャバハが突然売られて、新しく主人になった小さな女の子は、気持ちよくなる水を与えてくれ、なによりも1日2回甘いりんごを食べさせてくれる。

 常に話しかけ、その仕事ぶりを慰労してくれる主人に、ジャバハはいつしか心を開いていた。



 アンナリーナは初日の災難から、村に立ち寄る事を避けて野営し、町にだけ滞在して先を急いだ。

 そして8日目、ようやく隣国との境の町にやって来た。


「はあ、やっとたどり着いたよ」


 端境の町【ランパ】

 アンナリーナがこの【取り残された地】の、今まで通過してきた町と比べて、規模も人口もかなり差がある町。

 そしてここには見るからにヒト族ではない種族の者たちがいた。


「明日にはこの地を抜けられるわね。

 国境を越えて、隣国の町に入ったらようやくひと息つけるかも」


 アンナリーナはもうこの地では泊まる気はない。

 これから町を通り抜けて、西門から街道に出る。ここは隣国に至るメイン街道で、今まで通ってきた道とは比べものにならないほど整備された広い道。

 あっさりと西門から出たアンナリーナはジャバハの脇腹を軽く蹴った。


「今日は無理をさせちゃうね。

 次の町に着いたらゆっくりさせてあげるから、ごめんね」


 アンナリーナが急ぐのは訳がある。

 前回一泊した町でも、何とも居心地の悪さを感じたのだ。

 ……“ 外から ”やってきたものに対する、露骨ではないが気にならなくもない視線が気持ち悪い。

 とてもリラックス出来る状況ではなく、結界石に守られているとはいえ寝つきが悪かった。

 この町は隣国と隣接しているのでマシかもしれないが、あと少しでこの魔法が使えなくて不便な状況から一刻も早く抜け出したいのだ。

 もう陽は傾き始めている。

 その中を、明確な希望を持って走り出した。




「夜這いだって?!」


 西風の精霊王経由で、アンナリーナの被った被害を聞いてテオドールの頭が沸騰した。

 アンナリーナの現状は、定期的に知らされていたが、今回は少し間が空いた。


「もちろん何事もなかった。

 村の連中も皆がそういう考えではなかったから問題なく村を出られたのだ」


 今は馬に乗って進んでいると聞いて気を落ち着けたが、テオドールが、そしてセトが出立の準備を始める。

 彼らはまだ、アンナリーナと落ち合うべき隣国【ベルムミュンデン】にたどり着いていなかった。

 これはセトがドラゴン化して空路を飛行出来ない事が大きい。

 ドラゴンの飛行は、空中での浮遊は風魔法によって調整しているのだが、セトが契約した精霊では力不足であって支える事が難しく、今回は陸路を進んでいた。


「くそぉ、後手に回るな……

 精霊王殿、国越えしたすぐの町で待っているように伝えてもらえるか?」


「了解した。

 彼の地から出ることが出来たら、我も自由に動けるようになる」


 精霊王でも自由にならないほど、魔素のない彼の地は特別な地だった。


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