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258『危機一髪!』

 閉鎖感に溢れた村に現れた、ひとりの少女。

 この村の人間は村長や兵士のような親切な人物だけではなく、今回は特に男たちの間で、ある話し合いが行われていた。


 こういった村では血が濃くなり過ぎないように外部のものを取り込んで婚姻する事がある。

 今回アンナリーナの見た目があまりにも幼いので、村の大方の考えはこのまま見送ろうということになっていた。

 だが、年若く自分に見合った年回りの女子がいない連中は違った。


 まずは宿屋の息子。

 彼はアンナリーナの夕食に眠り薬を仕込んだのだ。

 普段のアンナリーナならまったく問題ない事だったのだが【各種状態異常無効】のスキルが失効していたため、不覚にもアンナリーナは早い時間に寝入ってしまった。

 直前に結界石を配置出来たことは誠に重畳であったのだ。

 そしてその結界石はちゃんと仕事をして退けた。

 夜中、アンナリーナの部屋の扉に合鍵が差し込まれ、内開きの扉が開くはずだった。

 アンナリーナの部屋に忍び込もうとしているのはこの宿の息子だ。


『!? 何だ!』


 鍵は開けたはずなのに扉が動かない。

 全身の力を篭めて押してもビクともしない。


『くそぉ、こうなったら窓から入ってやる』


 息子は勝手口から出、アンナリーナの窓めがけて壁をよじ登り、窓を開けて中に入ろうとしたが、まるで透明な壁に当たっているかのように、先に進めない。

 叩いたり、蹴ったりしていると、さすがにアンナリーナも目を覚ます。

 そして、何が起きているのか把握して呆れはてた。


「……これは夜這いなのかな」


 アンナリーナ、初めての体験である。



 翌朝、素知らぬ顔で食堂に降りたアンナリーナは朝食もそこそこに村長のもとに向かった。

 実はアンナリーナ、出来ればテオドールたちと合流するまでこの村に滞在したいと思っていた。

 だが昨夜の一件で、そんな考えは吹き飛んでしまった。

 ……こういう閉鎖的な場所ではありがちな、新しい血を入れるための事とはいえ、自分がそんな目に遭うのはまっぴら御免だ。

 この先の村や町でもあり得る事かもしれないが、ここでは相手の顔を見てしまったのだ。

 アンナリーナは歩みを早めた。



「馬……ですか?」


「出来れば馬車も一緒にお願いしたいのですが、馬だけでも構いません」


 今アンナリーナは、これからの道行きの脚として馬の購入を持ちかけていた。


「急な話ですね」


 村長は訝しげだ。


「実は私、学生でして。

 なるべく早く戻らないと学業の方に支障を来すのです。

 もちろんお代は十分支払わせて頂きます。

 何とかなりませんか?」


『お代』と言うところで村長の頬がピクリと動いた。

 もうひと押しで行けそうだ。




 結果的には馬は買い取れた。

 ただ、馬車を轢くような馬ではなく、いわゆる農耕馬と言う種類の馬だった。

 だがこの【ジャバハ】という馬、やたら頑丈で脚の太さなど普通の馬の3倍はある。

 前世でのばんえい競馬に使用されている【ばん馬】に近い体つきをした、体重が1t近くある大型馬だ。

 そこにアンナリーナは以前セトが竜化した時に使っていた鞍を取り付け、出発する。


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