255『踏破!』
巨大な樹木が生える森の中を、本能と言うべき気配を読む事で危険を察知しながら歩みを進める。
時折対峙する獣を屠る為【風刃】を使うので、イェルハルドが帯同しているのはわかっている。
だが、アンナリーナからなるべく魔素を奪わないように顕現はしていない。
わずかに気配を感じるだけだ。
そうこうするうちに陽が傾いてきた。
そろそろ、今宵身を休める場所を見つけないと、と思っていたところおあつらえ向きのウロを見つけた。
それは巨大樹の根元にぽっかりと空いていて、中を確かめたところ獣が使った跡もない、テントを張るのにちょうど良い大きさだった。
「まだ少し早いけど、こんなに良い場所はなかなかないわよね」
アンナリーナは木の周りを取り囲むように結界石を置き、ウロの中にテントを張った。
そのテントは普通に雑貨屋で売っているテントだが昨日よりはよほど広く、暖房を兼ねて魔導コンロも出した。
早速、作り置きしていた鍋を出しコンロにかける。中は具沢山ミルクスープで、アンナリーナはそれに大振りのソーセージを入れた。
次にコッペパンを取り出し、残っているかな……と思い浮かべたポテトサラダも3種類出てきた。
ナイフでコッペパンに切り込みを入れ、そこにポテトサラダを挟み、オレンジもどきを一個取り出して、夕食の準備は調った。
アンナリーナがこの、魔素のない森に飛ばされて初めて、まともな食事を摂ることになった。
徒歩での踏破は遅々として進まない。
イェルハルドに定期的に、現在地を確認してもらえなければ先に気力が萎えていただろう。
それほど厳しい毎日だった。
だが、それももうすぐ終わり、アンナリーナはようやく森を後にしようとしていた。
「やっと森から抜けたー!」
だんだんと明るくなっていく森の中を駆け、久しぶり……およそ50日ぶりの燦々と降り注ぐ日差しの中、アンナリーナは思わずバンザイをした。
そして草むらを道に向かって歩く。
『マスター、道まで半日、そして向かって右に行ったら村?町?がある。
大体、2〜3日くらい?』
イェルハルドの声が聞こえてきて、周りを風が動く気配がした。
「ありがとう。
何か、やっと森から出られて、私」
『マスター、泣くのは早いよ?
今居るここにはまだ魔素はない。
道まで出たら戻るのか、人の住むところに行ったら戻るか、それともこの地域一帯魔素がないのかわからないのだ』
「ステータスオープン」
アンナリーナがそう言っても何も起きない。
『マスターの魔力値はべらぼうだけど、はっきりするまで節約する方がいいよね』
アンナリーナの魔力や体力が回復しているのかどうか、それもはっきりしない中、イェルハルドはシビアに指摘してくる。
どちらもすぐに枯渇するような値ではないが、念には念を入れた方が良さそうだ。




