253『魔素のない土地』
つかの間の放心状態から回復して、アンナリーナは手をかざし、言った。
「【ファイア】」
指先から小さな炎が上がる。
同時にアンナリーナから安堵の溜息が漏れた。
どうやら精霊魔法経由の属性魔法は使えるようだ。
「【ウォーター】」
チョロチョロと水があふれ。
「【ウィンド】」
水が溢れて濡れた服を乾かした。
『マスター!
無事で良かった。
呼び出されるのを今か今かと待ち望んでいたんだ』
西風の精霊王イェルハルドの声はするが姿は見えない。
アンナリーナがキョロキョロすると肩を抱き寄せられる気配がした。
『少し長くなるかもしれないが、我慢して聞いて欲しい』
アンナリーナは心を落ち着けるためにアイテムバッグからサー○スの水筒を取り出した。
その中身を金属製のマグに注ぐ。
そしてそれを、試しにインベントリに入れようとして、肩を落とした。
「入らない……」
『マスター。
ここは……この地域には魔素が存在しない。
だから魔法が使えないのだ』
「魔素がない?」
『ああ、我もマスターの魔力がなければ存在出来ない。
だから、この後どうなるかわからないから、魔力を食う顕現化はしない』
それでも、なるべく側にいると言う。
「ここはどこなのかしら……
まさかブエルネギア大陸ですらない?」
『マスター、それは大丈夫だ。
ただ、かなり北に飛ばされている』
「飛ばされる。
そう、あれは一体何だったの?」
ようやく、その事に思い至ったのか、アンナリーナは根本的な原因に対して興味を持ったようだ。
『あれは多分……
かなり昔の、古代のダンジョン跡だと思う。
もう今はダンジョンの形すら残っていなくて、それでも偶々生きていたトラップを作動させてしまったのだろう。
それが最悪な転移のトラップで、よくわからない場所に飛ばされてしまったのだけど……ご丁寧に魔法の使えないところなんて、凄く悪意を感じるよ』
そのかわりこの森には魔獣はいない。
だが特殊に進化した獣はいるようだ。
『ここには木の上まで上がってくるような獣はいない。
マスター、明日に備えてゆっくり休んでくれ』
イェルハルドは主の側に、ずっといたかった。
だが今はまだ、減った魔力値が元に戻るのかわからないので自重するしかない。
イェルハルドの気配が消えて、アンナリーナはまたアイテムバッグから【異世界買物】で手に入れたものを取り出した。
「ずいぶん前に買ったけど、こっちに入れておいてよかった〜」
取り出したのは登山用品でよく見るミニバーナーとコンパクトなステンレスの鍋だ。
この鍋に作り置きしていたスープを移し、ご飯を足しおじやにして熱々のところを食べた。
身体が冷えないようにホットワインを飲んで、寝袋に包まって横になる。
思いがけない危機に神経が尖っていたが、それよりも身体の疲れが優っていたのだろう。
まもなく聞こえてきた寝息を脅かすものはいない。




