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242『エルドランとの商談3』

 アンナリーナは次にひと抱えもある壺を目の前に押し出した。


「これは私の住む大陸ではわりとポピュラーな魔導具です。

 比較的安価で、割れるまで半永久的に使用できます。

 持ち運びには適しませんが、これ1つあれば、普通の家庭なら十分です」


 何の変哲もない素焼きの壺だ。

 エルドランは手に取って中を覗き込んでいる。


「詳しい事はわかりませんが、水の魔法を付与してあるそうです。

 定期的に魔石を交換する必要があるそうですが、それほど難しいことではありません」


 エルドランはしみじみと考えていた。

 この【水の湧く壺】が流通すれば生活が変わる。

 これは一般家庭だけでなく、富裕層にも購入が見込める。

 富裕層とは言え家事を行うのは使用人である。そして彼らは魔法を使えるものがほぼいないのだ。

 現に富裕層や貴族家でも井戸から水を汲み置いて使われている。


「ではこれも銀貨5枚で」


「ちょっと待って下さい」


 アンナリーナがエルドランの言葉を遮って言う。


「こちらは銀貨3枚でお願いします」


 この壺はハルメトリアの王都の雑貨屋で銀貨5枚〜で売られているものだ。

 今回アンナリーナは一番流通している安価な品を大量購入してきている。


「そんな……本当にそれでよろしいのですか?」


「ええ、まだまだお取引できる品は持っておりますので」


 エルドランの身体が、ゾッと総毛立つ。


「まあ……ひとつひとつ片付けていきましょう。

 それでこの壺はいかほど納品させていただきましょうか?」


 今回は場所を取る商品だ。

 先に契約書を交わして、ギルドの倉庫へと場所を移した。


「ではとりあえず100個。

 これが評判が良ければ、連絡いただければ、まだお渡しする事ができますので」



 アンナリーナが見るところ、エルドランはたった2つの商品でお腹いっぱいのようだ。

 冷や汗をダラダラ流しながら、だがその目は欲にまみれている。

 その様子を横目で見ながら、アンナリーナはほくそ笑んだ。



「なあリーナ。あれでよかったのか?」


 テオドールが戸惑い半分、話しかけてきた。

 今はもう商業ギルドから退出し、次の目的地【薬師ギルド】に向かっている。


「いいのよ。むしろ【多目的ライター】の方はもう少し安くてもよかったくらい。水の壺の方は仕入れ値の関係であれくらいはもらわなきゃマイナスになっちゃうからね」


 領都の喧騒の中、アンナリーナはテオドールとともに歩く。

 この領都はハルメトリアの王都に勝るとも劣らない賑やかさであった。

 何よりもここにはハルメトリアにはなかったものがある。

 それは今まさにアンナリーナの横をすれ違っていった。


 冒険者の格好をしている女の子が2人。キャピキャピとはしゃいでいるその子達の頭には、うさぎとたぬきの耳が生え、尻尾もある。


「これが本当のバニーガール……」


 そう、獣人だ。

 彼、彼女らは他の亜人やヒトと共にこの町で生活を共にしている。

 人種のるつぼと言うべきこの町でアンナリーナは、この時までにそれなりの貨幣を手に入れていた。


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