240『エルドランとの商談1』
アンナリーナは朝から、商業ギルドに行くための準備をしていた。
【異世界買物】を使用し、いくつかの商品を箱買いしていった。
商業ギルドは直接荷物を搬入することも見越しているのだろう、建物の大きさが他のギルドの倍はある。
通りに面する方には人が出入りする入り口の他に馬車の搬入口がある。
そちらの方から喧騒が聞こえてきていた。
「賑やかだね」
「そうだな。
俺は、商業の事はよくわからんが」
今日のお供はテオドールである。
今日の、商業ギルドへの訪問はすでに先触れがしてあるので、ごたごたはないはずだ。
商業ギルドは独特の喧騒と、それでも整然とした雰囲気を持つ場所だった。
アンナリーナは総合案内のような、扉を入ってすぐの机の女性に声をかけた。
「こんにちは。
今日、こちらのギルドマスターとお約束しているリーナと申します。
これは紹介状です」
フミラシェからもらった紹介状を渡し、アンナリーナは微笑んだ。
女性はすぐに対応してくれる。
「はい、お話は伺っております。
こちらにどうぞ」
女性の先導で階段を上っていく。
「ようこそいらして下さいました」
満面の笑みで迎えてくれたのは、この商業ギルドのマスター、エルドランである。
「はじめまして、リーナです」
向かい合って握手をし、勧められて腰を下ろしたアンナリーナは単刀直入切り出した。
「今回のお呼び出しは、お取引の事ですよね?」
「はい、当方と致しましては、ぜひリーナ嬢と実りのある取引をしたいと思っております」
「ありがとうございます。
私も、こちらとお取引出来そうなものをいくつか考えてきました」
エルドランの笑顔がより一層輝いて見える。
……正直、胡散臭い。
「まず、私が “ 異邦人 ”だと言うことはご存知ですよね?
それを踏まえて、話を聞いていただきたいのです」
「はい、お聞きしています。
大変な旅であったということも」
乗っていた船が魔獣に襲われて沈没。
そしてこの大陸に、奇跡的に到着するまでの海上での困難、そしてこの町にたどり着くまでの、想像するだけでも痛ましい苦難の日々……
幼く見えるアンナリーナの事を思って、エルドランは目頭を熱くする。
「そこでですね、このような品を用意してみました」
船上でこの大陸の事情……獣人にはほとんど魔力がないという事を聞いてから考えていたもの。
「どこでも簡単に火を起こせる魔導具、そして水が湧き出す壺です」
アンナリーナはインベントリから素焼きの壺と【異世界買物】で購入した多目的ライターを取り出した。
これは魔法を使うすべを持たない人たちには歓迎されるだろう品だ。
そしてこちらに来てから確かめたのだが水魔法を使えないものは井戸から水を汲み水瓶に溜め置いているのだという。それなら水の湧く壺も需要があるだろうと王都などで集めてきたのだ。
「これは……この品々は」
エルドランはワナワナと身体を震わせ、この2つを手に取った。
「壺はふちを3回叩くと水が湧き出します。ほら、こんなふうに」
コンコンコンと叩くと瞬時に水が上がってくる。
そしてコンと一度叩くと水が止まる。
「おお!これは便利ですな」
エルドランがひと抱えもある壺を持ち上げて、中を覗き込んでいる姿は、何故かコミカルだ。
「こちらはこう、使います」
鮮やかな色の、何の素材で出来ているかわからないそれの、先端が細い方を上にして、カチリと音がした瞬間【火】がついた。
「おおお!」
エルドランが目を丸くしている。




