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221『脱出』

 その海の魔王の名は【ストレイン】と呼ばれ、恐れられていた。

 この巨大な魔獣は、人間側にはその正体を知られていないが実は巨大なイカとイソギンチャクの混合体で、普段深海の海底で生息しているときはそれほどの大きさではないのだがこの個体は何かの原因で海底を離れ、海中を上昇することで凄まじい水圧を受けることがなくなって異常成育した特殊体だった。

 普段は比較的浅めを漂っているストレインだが、その海中の振動を捉える器官は発達していて、そしてどのようなものでも食べることから【悪食の魔獣】と呼ばれていた。


 その【ストレイン】が、アンナリーナたちの乗る船に気づいたのは3日前の事だった。

 それから【ストレイン】はゆっくりと距離を縮めていき、今日その魔の手を伸ばしてきたのだ。



 突然、晴れ渡っていた空に雲が湧き、それがどんどんと黒くなっていく。

 それが、限りなく黒に近い紫だと確認出来たとき、船長および船員たちは全員絶望した。


「あれは……」


 悪食の魔獣が現れるとき、そのあまりの巨大さに気圧の変動が起きて、あたりは一帯闇に染まる。

 それなのに海は信じられないほど凪いで……悪魔の訪れを演出していた。




「熊さん、セト、イジ。

 船から避難します。

 ……ここから大陸までの距離はひと月を切ってます。

 このままツリーハウスに帰ったとしても遭難したはずの私たちがアシードに現れたら拙いわけだし、あそこからは二度と船に乗れない。

 王都経由で行けない事もないけど、今回はチャンスだと思うの。

 私とセトで空路で大陸を目指します。

 あなたたちはツリーハウスで待機していて」


「リーナ!!」


 テオドールが怖い顔で怒鳴った。

 イジも納得いかないわけで、顔色を変えてアンナリーナを見つめている。


「熊さん、イジ。

 これはチャンスなの。

 ……私とセトの魔力を合わせればきっと、大陸に到達出来る。

 でもそのために少しでも重量を減らしたいの。

 お願い、わかって!」


「そんな……

 おまえ、許せるわけないだろう」


「じゃあ、こうしたらどう?

 本当に到着出来ないと悟ったら、転移でツリーハウスに戻るって約束する。

 ねえ、聞き分けて!」


 その時船体に衝撃が走り、激しい揺れにアンナリーナの身体が投げ出された。


「リーナ?」


 咄嗟に庇ったテオドールの腕のなか。

 アンナリーナは、今日もきれいに髭を剃った頬にキスをする。


「さあ、テントを出すから早く行って!

 ギリギリになると私たちも巻き込まれてしまう」


 この言葉を聞いて、テオドールは自分たちがアンナリーナの足を引っ張る事になるのだと、初めて気づいた。

 そして彼は万感の思いで、愛しい女を抱き締める。


「わかった。

 俺たちは家で待ってる。

 絶対に無事に大陸に到達して、帰って来い。

 ……セト、お前にすべて任せる。

 必ずリーナを護れ」


「もちろんだ」


「私の留守中は熊さんがリーダーとしてツリーハウスを守って。

 イジはその補佐をお願い。

 ツリーハウスでは普段通りに採取もお願い。

 デラガルサのダンジョン探査も許可します」


 もう一度、ドンと揺れ、今度は爆発も誘発したようだ。

 船が一気に傾いていく。


「さあ、もう時間がないわ。

 早く行って!!」


 素早く取り出されたテントの中に、2人が駆け込む。

 そして振りまきざまにテオドールが辛そうな笑みを見せた。


「また、あとで!」


 2人がツリーハウスに移った事を確認して素早くテントを収納したのと、セトに抱きかかえられるのは同時だった。

 それからセトはその脚力で一気に跳び上がり、空中でドラゴンに変化する。


「主人、高度を取るまでもう少し我慢してくれ」


 アンナリーナは今、ドラゴン化したセトの、軽く握った手の中に抱き込まれている。

 セトは一度、もう少し居心地良く握り直そうとしていたのだ。


「セト、無理しなくていいわ。

 ……おそらく今回の旅程は長丁場になると思うの。

 あなたにはずっと飛び続けてもらわなきゃいけないので、なるべく省エネで」


 セトには省エネが何たるかわからなかったが、アンナリーナの気持ちは通じていた。

 そして彼らは最後に、これまで2ヶ月の間過ごしてきた、沈みゆく船の周りを一周して、そして大陸の方向に飛び立って行った。


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