208『コーロナヴァル』
「では、あなたに名前をつけます。
そうねぇ……コーロナヴァル。
略してコロね」
ハイ・コボルト・ソルジャー改め、コーロナヴァルはひれ伏したまま、ちぎれんばかりに尾を振っている。
そして子犬のようにクンクンと鼻を鳴らしていた。
「ふふ……可愛いね」
アンナリーナが前世で飼っていたシェパード種に似たコーロナヴァルの、その頭を撫で、耳の付け根をくすぐる。
するとコーロナヴァルはクフンと鳴いて、ヘナヘナと蹲ってしまった。
「コロ、コーロ、お肉食べてみない?」
まるでそこらの野良犬に餌をやるような、その様子にテオドールが慌てる。
「リーナ、やめろ!
手を食いちぎられたらどうするんだ!!」
近づいてきたテオドールに腰を抱かれ、引き離されてしまう。
「あぁん、駄目じゃん!
ちゃんと従魔契約を済ませてるんだから噛んだりしないって。
ねぇ、コロ」
フンフンと鼻息荒く、コーロナヴァルが頷いた。
だが愛称とはいえ【コロ】は酷くないだろうか。
この世界の住人であるテオドールたちは知らないが、アンナリーナの前世では完全に犬の名だ。
「何か、うん。そんな感じだな」
あまりの懐きように、テオドールだけでなくセトたちもあんぐりとしている。
「この子の部屋を用意しなきゃ……
セト、今夜はとりあえず、いつものトレーニングルールで寝てもらって」
そこでコーロナヴァルが縋りつくように足元にきた。
耳は垂れ、尾は垂れ下がって股の間に挟まってしまっている。
そして、ク〜ン、ク〜ンと哀れに泣く、そんなコーロナヴァルに、アンナリーナは手を差し伸べた。
「じゃあ、今夜はここにいる?
さすがに寝室には入れてあげられないけど……」
「リーナ。
まず、奴は風呂に入って、身体をきれいに清めるべきだろう。
寝床云々はその後だ」
「たしかにそうだね」
「主人、俺があちらに連れて行って身体を洗わせてくる。
これからの事は、その後でいいのではないか?」
「うん、じゃ、セトよろしく。
コロはちゃんとセトの言うことを聞くように」
情けなく、ク〜ンと一声鳴くと、すごすごとセトの後について馬車の中に入っていく。チラチラと振り返りながらのその姿に、アンナリーナは心揺さぶられたが、テオドールの腕の力が強まって現実に引き戻された。
「リーナ、先に食事を済ましてしまおう。
……まったく、色々驚かせてくれるなぁ」
「うん、私もこういうのは初めてだからびっくりした。
従魔が増えるのも久しぶりだから」
「ああ、そうだな」
馬車の中の扉の向こうには広いリビングが広がり、そこには夕食を終えてくつろぐ、従魔たちがいた。
「あら、新入りさんかしら」
まず反応を見せたのはアラーニェだった。
「お風呂に放り込んで丸洗いかしら。
着替えを用意しておくわ。
セト、あなたが面倒みるの?」
「ああ」
「そう、じゃぁ」
他の従魔たちの視線のなか、アラーニェと別れたセトとコーロナヴァルは、たくさんの扉の並ぶ廊下を歩いていた。
「なぁ、そろそろ普通にすればどうだ?おまえさん、話せるんだろう?」
セトの問いかけに、コーロナヴァルはニヤリと笑った。
「……すこしは」




