207『ハイ・コボルト・ソルジャーの願い』
“ 運命のひと ”
その、ハイ・コボルト・ソルジャーはダンジョンに発生した種族だった。
己が意識が覚醒した時、多数の群れの仲間と縄張りを作り、生活していた。
……多少の小競り合いはあったが、基本縄張りの中で獲物を狩り、森や平原を走り回る。
そんな生活があっさりと崩れ去ったのは、見慣れない “ 異邦人 ”の来襲だった。
縄張りに侵入してきたそれらを迎撃するために、群れの仲間と出撃したその時 “ そのひと ”に出逢って何もかもが変化した。
ハイ・コボルト・ソルジャーは目の前で屠られていく仲間の姿を見ても何も感じず、ただただ “ そのひと ”から目を離せずにいた。
早々に闘いの場から撤退した彼は、それでも “ そのひと ”から離れ難く、遠巻きにしながら付いていく。
それから彼は、何かに取り憑かれたように……いや、実際 “ 取り憑かれて ”いたのだが、その一行の後を追った。
夜などは遠巻きながらも野営地を望み、結界の張られたその周りを回る。
そうして、どうしても離れ難い “ そのひと ”に近づくすべを探っていた。
森の中で珍しい白い花を見つけた彼は、生まれて初めて “ 花を摘む ”ということをした。
そしてそれを夜陰に紛れて結界のすぐそばに置いてきた。
見張りの目を盗んで、あのひとがいるだろう家屋の方をジッと見つめる。
そして溢れる想いはどうしようもなかった。
次の夜、そのハイ・コボルト・ソルジャーにとって忘れられない夜となったその時、今夜の野営地は異常だった。
結界の中が騒がしく、それに煽動されたかのように、そのあたり一帯の魔獣が集まってくる。
ハイ・コボルト・ソルジャーは腰に佩いだ剣を抜き、どんどんと数の増える魔獣……己と同じコボルト種すら何の感慨もなく屠っていく。
そして気がつくと、目の前にあのひとがいた。
結界から出てきたあのひとが皿を差し出す。
それはとてもおいしそうな匂いのする肉だった。
だが、ハイ・コボルト・ソルジャーが嗅いだのはそれとは違う、芳しい香りだ。
それから彼は伏したまま近づき “そのひと ”の事しか考えられず、気づけばすべてが終わっていた……
いや、ここから始まったのだ。
『ハイ・コボルト・ソルジャーが仲間になりたがっています。
YES/NO?』
頭のなかに響いた声に、アンナリーナの理解がついていかない。
『は?
まるでゲームでしょ? これって』
今まで、アンナリーナの従魔たちは、彼女の方から従属を誘いかけて従魔となっていた。
だが、本来の従魔術とは対照の魔獣と戦って弱らせ、屈服させるものである。そうして魔獣側から屈服の誓いとして従属の申し込みが行われるのだ。
今起きているのはその本来の形に近いものであり、ハイ・コボルト・ソルジャーは答えを待っている。
「もちろんYES、よ」
その瞬間、ハイ・コボルト・ソルジャーは、己が体内に力が満ち溢れるのを感じた。
同時に喜びで頭がいっぱいになり、彼は思わず前に這い出て、アンナリーナの手に頭を擦りつけた。
グルグルグル……キュ〜ン、ク〜ン
甘えてくる、犬そのもののハイ・コボルト・ソルジャー。
アンナリーナは戸惑いながらもその頭を撫でて、前世の実家で飼っていた犬を思い出していた。
「何となく、こうなると思っていた」
イジが呟くと。
「……ジルヴァラが荒れるぞ」
セトがそう返した。




