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205『不審な影』

 攻略は順調に進んでいる。

 まあ、それも無理はない。

 アンナリーナたちの能力は完全なオーバーキルなのだ。

 眼前を遮る敵を蹴散らし、わざと魔獣が固まっている場所を探して突入し、ついでにマップを記入していく。

 ……当初予定していた全体マップ作成は早々に諦めた。

 それはこのダンジョンが広大だという事もあるが、単にアンナリーナが面倒くさくなったからだ。

 そうこうするうちに3日経ち、アンナリーナ一行は前回到達していた12階層を大きく越え、今は16階層に来ていた。


 そして今、とても困った状況になっている。

 それはこの階層が今までにないほど広いという事もあるが、実は別の案件でアンナリーナは悩んでいた。

 それはテオドールを始め、従魔たちも同じで、どう対処すれば良いのか戸惑っていた。



 それはこの16階層にきて3度目の交戦の時だった。

 バラバラと分布する、この階層でメインの魔獣【ハイ・コボルト・ソルジャー】を狩っていて、何となく違和感を感じた。

 それは4度目、5度目と続く。


「ねえ、ちょっと集まって」


 アンナリーナのその言葉に、4人が顔が触れ合うほど近づいた。


「気づいてる?

 何か、変な動きをしている個体がいるよね?」


 それはいつのまにか近づいてきていて、戦闘が始まると一度引き、様子を窺っている。

 そして自分が標的になる寸前、姿を消すのだ。

 それがもう3度繰り返されている。


「完全に何か意図しているよね。

 2度までは偶然かと思っていたけど、もうこれは必然だね」


 テオドールも頷き返した。

 野生の、感覚の鋭いセトとイジはそれ以上のものを感じているようだ。


「主人も感じているだろうが……悪意は感じさせない。

 どうやらあちらも戸惑っているような雰囲気だが、どうだろう?」


「そうだな……

 今もこちらを、ジッと見ている?」


 イジは心底気持ち悪そうな顔をしている。


「あ、動き出した」


 アンナリーナはマップ上の点が紫に変わっている事に気づいていた。これは普段魔獣を示す青点から変化したものだ。


「う〜ん、なんだろう。

 こんな事初めてだからよくわからないよ」


 この場では、このまま様子を見ながら進む事にした。

 そして相手に気取られないように、今までと変わりなく、高速で移動していく。


「しかし、この階層はだだっ広いね。

 下に降りる階段があれば、この悩ましい状況からも解放されるのに」


 基本的に、このダンジョンに生息する魔獣は階層を越えて活動しない。

 だから下に降りてしまえばスッキリするのだが。



「また、来てる」


 あまりの広大さに2〜3日での踏破を諦めたアンナリーナたちは、今夜の野営地に定めた平原で夕餉を食していた。


「相変わらず悪意は感じないけど……

 何か困っちゃうね」


 大型馬車を家屋がわりに、外に魔導コンロやテーブルなどを出して、アンソニーが出張してきての夕食だった。

 その周りに堅固な結界を張り、一応見張りは立てているが、全体にゆったりとした空気が流れている。


「まあ、まだ下への階段も見つかってないし、何となく長丁場になりそうな気がする。

 ……のんびり構えてたらいいんじゃないか?」


 おっとりとテオドールが、そう提案する。


「うん、そうだね。

 今のところ実害もないし」


 アンナリーナがチラリと視線を巡らせた先は結界の向こう、平原を越えた森の中に向けられる。


「うん、見てる」


 そのハイ・コボルト・ソルジャーは付かず離れずの距離感でアンナリーナたちを窺っていた。


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