202『やっと地上に』
冒険者の体内時計はかなり信頼に足るものである。
外では早朝にあたる時間帯。
8階層で野営した男たちが次々と起き出してくる。
もう、朝食の用意も出来ていて、その様子に気づいたアンソニーがコーヒーを点て始めた。
今日は昨日と打って変わって、出没する魔獣の数が多い。
ある程度、間引かれているはずなのに、わざわざ足を止めて退治していた。
「絶対、集団から離れないで!
もしものことがあっても、探しに行けないから!」
アンナリーナが叫ぶなか、途中で幾度も襲撃を受け、冒険者たちも傷だらけになっていく。
そのまま、力尽くで押し切って、一行がダンジョンから外に出たのは、もうあたりが闇夜に包まれる頃だった。
「外だ! 外だーーっ!」
わずかに漏れる月明かりに、一行の中からひとり、またひとりと、駆け出していくシルエットに、セトに抱かれたままのアンナリーナは苦笑した。
「ようやく着きましたね。
ありがとうございました」
アンナリーナたちの元にエンゲルブレクトがやってきて声をかけてきた。
これでこの男からも解放されると思えば、ホッとする。
いい加減アンナリーナは、このエンゲルブレクトを含む連中に辟易……といった感情を隠しきれなくなっていた。
昨夜も、こう言った野営の時にはつきものなのだが、アンナリーナのテントの結界に触れたものがいる。
大方、何かを盗難しようとしているか、もしくはアンナリーナ自身に用があったのか。
ふつふつと湧き上がる怒りを、今日この場限りと押さえ込んで、笑みを返した。
「私も、お約束を果たせて、ホッとしています」
作り笑いと、口先三寸。
ドッと疲れが押し寄せてきたアンソニーに、次の言葉を流す余裕はもうなかった。
「リーナ殿。
ぜひ、このまま私たちと王都にご同行願えないだろうか。
ぜひぜひ、私たちのクランに参加していただきたい」
自分たちの優位がかけらも揺るがないと思い込んでいる、この傲慢さ。
断られるとは思っていないような自信に満ちたその態度に、アンナリーナはカチンときた。
「せっかくのお言葉ですけど、私たちはこの後、予定が決まっているのです。残念ですが、お断りさせていただきますわ」
断られるとは思わなかったのだろう。
エンゲルブレクトは唖然として固まっている。
王都でも随一のクランである【ジャスティスハート】への勧誘を、けんもほろろに断られるとは思ってもみなかったのだろう。
何よりもアンナリーナの、そしてその眷属たちの能力を単純に欲しいと思うエンゲルブレクトは、さらに食い下がった。
「どうして……?
うちのクランに勧誘されるのは、この上ない名誉の筈だ」
「私たちは、誰かの元に下るつもりはありませんの」
何もかも、自分たちで行なっていけるアンナリーナたちに助けは必要ない。
クランに所属など、足枷以外の何ものでもないだろう。
「それより今回の報酬の件ですけど」
突然変わった話の中身に、エンゲルブレクトは戸惑いを隠せない。
「金輪際、私たちにかかわらないで下さいな。
……お互いに気分の良いものでは、ございませんでしょう?」
はっきりと拒絶され、エンゲルブレクトは立ち竦む。
彼を置き去りにしてセトが立ち去り、彼の横をアンナリーナの眷属たちが通り過ぎていく。
これでこの件は終わりを迎え、ようやくアンナリーナたちは当初の目的である【ダンジョン攻略】を実行できる事になる。




