191『寄生の末路』
「あの!」
穏やかな時間をぶち壊しにする問いかけがかけられて、アンナリーナは露骨に嫌な顔をした。
カップに残っていた紅茶を飲み干し、少女を見ると、不機嫌な声で言った。
「何?」
「あの、お願いです。
これから先、一緒に行ってもいいですか?」
少女は毎日こうして、目をつけた冒険者パーティに声をかけていた。
殆どのパーティから断られるが、今回は同じ年頃の少女がいるので取り入りやすいと思ったのだが。
「悪いけど、断らせてもらうわ。
うちはみんな家族なの。
他人を入れる気はないの」
「家族って……
亜人と魔獣ですよね。それ」
プチンと何かがキレた。
アンナリーナは無言で立ち上がり、その手のカップはイジが取り上げた。
「リーナ、そろそろ行こうか」
もう誰も少女に目もくれない。
「あの、待って」
「あなたは私の大切な家族を侮辱した。もう、関わらないで」
踵を返したアンナリーナは、周りをテオドールたちに囲まれ、守られるようにして階段を駆け下りていく。
慌てて後を追った少女が見たのは、まるで滑るようなスピードで遠ざかっていく、アンナリーナたちの姿だった。
【威圧】しなくても、アンナリーナの怒りのオーラに触れた魔獣たちは皆、潮が引くように遠ざかっていく。
そんな中【飛行】を使い、あっという間に駆け抜けた3階層、そして4階層。一頭の魔獣も狩らずにここまでやってきたアンナリーナたち一行は、ここでこれからの予定を立てる事にした。
「私はこのまま、行けるところまで行こうと思うんだけど、熊さんはどう思う?」
「俺もそれでいいと思う。
このあと、階層の面積が広がってくると思うが、うちにはあまり関係ないしな」
テオドールが左手の籠手をずらして手首を見た。
そこには【異世界買物】で購入した、ミリタリーウォッチが着けられている。
これは前回、デラガルサダンジョンに篭った時に時間の経過を図るのに苦労したため、今更ながら購入したのだ。
「じゃあ、18時を目安として、臨機応変って事で。
まだしばらくは【威圧】で抑えられるだろうけど、襲ってきたらヤっちゃって。じゃあ、行きましょうか」
5階層の魔獣も大した事のない連中だった。
だが4階層までとは違って、威圧に屈する事なく姿を見せるものがいる。
魔獣の強さが上がってきているのだろう。例えばオークにしても亜種が混じってきていた。
「これは……ギルドに報告した方がいいわね。いくつか持って帰ろうか」
「では無難に、俺が倒そう」
戦斧が、その重さを感じさせない動きでオークを刻んでいく。
そして一閃、太い首をものともせず、切断した。
「ふうん、結構マシな鎧を着けてるね。このL字刀も、浅い階層にしては質がいいものだね。
とりあえずこのまま、インベントリに入れとくよ」
これから攻略しようとしている冒険者には、良くない状況なのかもしれない。
その頃、アンナリーナたちに置いていかれた少女は途方にくれていた。
基本的にダンジョンで、見ず知らずのものに声をかけられて応える義務はない。
それが結果的に見殺しになろうとも、今回のアンナリーナの立場で責められる事はないのだ。
これは完全に、自分の力以上の場所に立ち入ったものの自己責任である。
今回アンナリーナは威圧する事で魔獣を散らせただけで討伐したわけではない。なので時間がたてばそれらは戻ってくる……ということが不幸だった。
「きゃーっ」
先程からずっと、少女は魔獣から逃げ回っている。
本来なら直前に冒険者パーティが通った後に、これほど魔獣が湧くなどあり得ないことなのだ。
「いやーっ! だれか助けてー」
今回このダンジョンに入ったのはアンナリーナたちとヘンリクスたちだけだ。
その他、6階層にひと組いるが苦戦している。
ここもデラガルサのように安全地帯がなければ、とても冒険者たちは保たないだろう。そう考えれば “ やさしい ”ダンジョンなのだが、なかなか攻略が進んでいない。
なので、少女の悲鳴を聞くものは誰もいなかった。




