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190『ハイエナをする少女』

 本来なら駆け足で通り過ぎるはずの2階層を、追ってくる少女の様子を見ながら進んでいた。


「次に魔獣が出てきたら殺ってみる。

 おまえは知らんぷりしてろ」


 テオドールの言葉の意味がわからなかったアンナリーナだったが、すぐに魔獣が飛び出してきたので、思案が遮られた。


「?」


 テオドールが斧を振り上げるとあの少女が急激に近づいてきた。

 アンナリーナの背後、本来なら死角にあたる方向からすぐそばまでやってきた少女はしゃがみこんで姿を隠していた。


『熊さん……あれ、何してるんだろ?』


『あとで説明してやるよ』


 アンナリーナと念話で遣り取りしながら、テオドールは斧の刃で引っかけるようにして、小型の魔獣レスコスというネズミ型魔獣を始末していた。

 アンナリーナたちにとってはほとんど価値のない魔獣だが、低ランク冒険者からすれば日々の糧を得るための貴重な素材だ。


「熊さん? どうしたの?」


 戦斧をブンブンと振り回し、汚れを振り払ってから【洗浄】をかける。

 近づいてきたアンナリーナを抱き上げ、耳元で囁いた。


「黙って聞け。

 あいつは【寄生】しようとしてるんだ。ひょっとすると直接接触してくるかもしれん」


「【寄生】?」


「そうだな、リーナは知らないよな。

 とりあえず、少し距離を空けるぞ」


 その聴力の高さで遣り取りのすべてを聞いていたセトとイジが動き出す。


「あっ!」


 瞬発力を生かして動き始めた一行の後ろで、驚きの声が聞こえたが、アンナリーナたちは無視をする。

 そのまま走り続けたアンナリーナたちは3階層に続く階段の上、安全地帯に着いた。


「リーナは多分興味がないだろうから気にした事もなかっただろうが、冒険者のレベルについてどれだけ知ってる?」


「ごめん、まったく考えたこと、なかった」


「まあ、そうだよな」


 アンナリーナの冒険者ギルドに関する知識は、前世でのゲームによるものだ。


「このギルドカードは、アーティファクトの魔導具だ。

 どういう仕掛けになっているのか、倒した魔獣の数がカウントされるんだが、同じパーティの者にも何割かが入るんだ」


 何と、まるでゲームの中のような仕掛けだ。だが疑問点もある。


「どうやってパーティ認定するの?」


 ゲームのようにパーティ申請などはないはずだ。


「わからん。多分だが仕留めた者の近くにいる事だと言われているが……」


「何それ」


「だからさっきのあいつ。

 ああやって他の冒険者パーティの側に潜んで、パーティ認定させて討伐数を掠めとる事を【寄生】と言うんだ」


「最低ー!」


 階段の踊り場に至る岩盤に、直接胡座をかいたテオドールの膝に抱かれてアンナリーナは、憤慨しながら話を聞いていた。


「主人、アラーニェから茶を預かってきた。少し休憩したらどうだろうか」


 腰のベルトに付いた小物入れ型アイテムボックスから保温ポットを取り出して金属製のカップに注ぐ。

 それをアンナリーナとテオドールに渡し、クッキーの入ったかごも取り出した。


「しばらくはかかるでしょうから、ゆっくりなさって下さい」


 イジが膝掛けを取り出してアンナリーナにかけた。

 このダンジョンの中は岩なので、地味に冷えるのだ。


「うん、このクッキー、バターが効いてて美味しいね」


 とてもダンジョンの中とは思えない、ほのぼのとした様子で休んでいたところ、そこに、話題の人の姿が見え始めた。


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