180『幼妻』
明朝、食事を摂る一行の前に現れたのは、テオドールだけだった。
今までいつも2人揃って挨拶してきたのだが、今朝はアンナリーナの姿が見えない。
代表して聞いたのは、当然と言えば当然のバルトリだった。
「テオドール殿、リーナ殿は?」
「あ〜 あいつは昨夜熱を出して、今は下がっているが今日は一日休みだ」
「それは……大丈夫なのですか?」
「ああ、結界とかは問題ない。
ただ、馬車を引く奴ら以外のエピオルスは、ちょっと遠慮してもらう」
「いえ、そうじゃなくて、いや、それもあるんですが、私はリーナ殿の体調が心配で」
アンナリーナの見た目は、華奢な少女である。発熱したなどと聞けば当然その容態を心配するだろう。
「ああ、すまない。
でも、ウチのはいつもの事なんだ」
「“ ウチの ”?」
耳聡く聞きつけたジルが、流せずに聞き返す。
「ああ、ウチの。
リーナと俺は夫婦だから」
「えええーっ!!」
隊商側の者たちに激震が走った。
ちなみに乗り合い馬車組は、2人が夫婦だということは遠に知っている。
「あんた、それって犯罪だろう!
何てことするんだ!!」
サリトナーが唾を飛ばさんばかりの勢いで叫んでいる。
テオドールとしてはいつもの事なので落ち着いたものだ。
「リーナはあんな見かけだが、とっくに成人してる。何も問題ない。
……まぁ、ちびっこだから色々……なんだがな」
「信じられない、信じられない。
あんた、その図体で嬢ちゃんを……
何て事するんだ!」
イアンが顔を赤らめて罵倒している。
これもいつもの事だ。
「そんな無体な事はしないさ」
もうこのあとは惚気になりそうなので、ジルが間に入って強制終了。
しかし男たちのやきもきした思いはなくならない。
それは夕刻、アンナリーナが夕食に現れるまで続き、意図せずに “ そういう目 ”で見てしまう自分たちを責め、反省した。
衛星都市ミルバラ。
アンナリーナの馬車は今、そこを目指して疾走している。
馬車の周りには適度に間隔を空けてエピオルスの集団が並走していた。
テオドールはダマスクと共に御者台に、バルトリは部屋で商品とリストを確認していた。
アンナリーナは……ツリーハウスより扉をくぐって、久しぶりに訪れる場所に来ていた。
「ユングクヴィスト様?」
そろりと扉を開けて、研究室兼居間?を覗くと、そこには眼鏡をかけて難しい顔をしているユングクヴィストがいる。
「ん? おお、リーナか。
久しぶりじゃな、息災にしておったか?」
眼鏡を外して立ち上がり、アンナリーナの手を取る。
その手に、逃がさないぞと言わんばかりの意思を感じ、アンナリーナは後退った。
「ええと、ユングクヴィスト様?」
「出国は許したが、何の連絡もなくフラフラと……」
ほんの少し怒りの混じった、呆れ果てたような声に、そう言えば出発の時の約束を思い出す。
「あの……ごめんなさい」
「で、今日はどうしたのだ?」
しつこくならない程度で話を切り上げ、本来の話題にと向ける。
アンナリーナは一枚の地図を取り出した。




