170『学研都市でやっておくこと』
例の串焼き屋は今日も長蛇の列が出来、満員御礼だ。
忙しそうに串焼きを焼く主人の他に、今日は奥さんと見られる売り子がいた。
主人とチラリと目が会うと、アンナリーナは手を振ってその場を通り過ぎた。
「結局、気乗りしないけど、ここに来ることになるんだよね」
アンナリーナとテオドールは今、大学院への門の前にいる。
本日は授業中のため、門は開かれていた。
「まあ、とりあえず……
管理棟の方に行って、案内してもらおうかな」
白亜の、円柱の立ち並ぶポーチに神々?の石像が並ぶ。
アンナリーナたちはその像を横目に見て、開かれたままの扉から中に入っていった。
そのまま受付に近づいていく。
受付のカウンターに着いていたのは、いつもの受付嬢ではなかった。
彼女はいわゆる縁故採用で、貴族社会に属するものだ。
「こんにちは。リーナと申しますが、シャルメンタル卿とお約束しているのですが」
受付嬢の遠慮ない視線が、アンナリーナたちを舐めるように動き、小さく鼻を鳴らした。
アンナリーナたちは、実はその素材は最高級の品々を使っているのだが見るからに冒険者な様相なので見下されたようだ。
「本日、学院長のご予定では、面会は入っておりません。
日時のお間違えではありませんか?」
シャルメンタル卿はアンナリーナの面会をフリーパスにしていたのだが、この受付嬢は見た目で判断してしまったのだ。
どこまでも非貴族を差別している受付嬢は、さっさと追い返そうとさらに言葉を続ける。
「学院長はお忙しいの。
あなた方のように訪ねて来るものたちすべてに会っていたら、お身体がいくつあっても足りないわ。
申し訳ないけど今日は引きとっていただけるかしら」
ここで罵倒しないのはさすがだった。
対してアンナリーナは見た目は残念そうに装いながらも、内心では踊らんばかりに歓喜していた。
『やったー! ウザいおっさんと会わずに済んだ!ありがとう、お姉さん!』
「左様ですか、残念ですがこれでおいとまさせていただきます」
そう言って大学院を後にするアンナリーナは、弾み出さないように苦労しながら門を出た。
「良かったー!
もうこれでここに来ることなく出発出来るよ。熊さん、これからどこか行きたいところはある?」
「別にないな。
……この後はゆっくりと市場を回って、足りないものを買い込んだらどうだ?」
この国の農作物は改良されておいしいとの評判だ。
アンナリーナは、小麦や米など用途に応じて【異世界買物】で購入しているが、こちらの作物も旬の折には購入している。
今なら小麦が出回り始めていたが、ここまでは手に入れてなかった。
「そうだね。ちょっと見て回ろうか」
小麦や根菜や、ガレットに出来そうな雑穀を買いながらアンナリーナは、テオドールと市場をそぞろ歩いた。
本当にこの学研都市は豊かだ。
大きな町にはありがちなスラムもなく、町行く人たちも一定の生活基準にあると言っていい。
これは例の、転生者であろうエドワルド王の治世の結果であろうか。
アンナリーナは自分と同じ転生者の、その一生を考えて胸詰まる思いだった。
その後アンナリーナは串焼き屋に寄って、明後日の朝出発する事を伝え、串焼きを20本買って帰った。
出発前日はテオドールの希望で1日静養する事になり、ツリーハウスのベッドで過ごした。
なお、アンナリーナを待ちわびていたシャルメンタル卿は受付嬢の失態を聞きずいぶん立腹して、再び招こうとした時はもう出発した後だったという。




