163『休息のとき』
テオドールの手によってベッドへと横たえられたアンナリーナは、ワンピースを脱がされ、下着であるアンダードレス一枚になった。
小卓にあった水差しの水を口移しで飲まされて、ひと息つく。
「あとでアラーニェをこちらによこすから、ゆっくりと寝め」
「うん、ありがと」
柔らかな褥で、羽布団に包まれて眠るアンナリーナは、夢を見ていた。
何の変哲もない日常の夢……
ただしそれは前世暮らしていた日本での暮らしであって、今現在とは根本的なレベルが違う。
アンナリーナは、前世ではある地方都市に住んでいた。
そこで地元企業に就職し、40代目前で一生を終えたのだが、その年にしてはかわいいもの好きであった。
一人暮らしの部屋にはぬいぐるみが多数鎮座し、年齢的にも見た目にも似合わないピンク色を好んで、家での小物を揃えた。
休日には少し足を伸ばして都会までかわいいものを買い物に行ったり……彼女なりにお一人様を満喫していたのだ。
夢の中でアンナリーナは久しぶりにショッピングし、なぜかその姿は今の姿だったので、夢にまで見たかわいいブランドの服を試着し、購入した。
今の世界にはない鮮やかなピンクの、フリルやレースがあしらわれたワンピース。同色のエナメルの靴。
アンナリーナは心底楽しんだ。
「リーナ様、リーナ様」
アラーニェの、優しく囁きかける声がする。
楽しい夢のあと、熟睡していたアンナリーナはすっきりと目を覚まし、起き上がろうとした。
「リーナ様、もう朝です。
おかげんはいかがですか?」
「もう朝?」
アラーニェのひんやりとした手のひらが額に触れて、熱を診る。
「お熱は下がったようですね。
でも大事をとって、今日1日はベッドでお休み下さいね」
今回は治りかけに無理をして外出したため、拗れてしまったようだ。
「アラーニェ、お腹がすいた」
「まあ、まあまあ、食欲があるなんて結構な事ですわ!」
早速持ってきたのは、アンナリーナの好きなミルクリゾットだ。
食べる間際にパルメザンチーズの粉を振りかけ、スプーンですくった一口に、ふうふうと息を吹きかける。
「いただきます……おいしい」
発熱してからほとんど食べられなかったアンナリーナは、リゾットをあっという間に平らげて満足そうだ。
「リーナ様、こちらは “ 別腹 ”ですわよね」
満面の笑みを浮かべたアラーニェから差し出されたのは、生クリームと季節の果実で飾られた【プリンアラモード】だった。
少しやつれた面差しが途端に笑顔となる。
デザートスプーンを手に取り、生クリームとプリンを一緒にすくい口にする。
「おいしい……」
熱が下がって味覚が戻ってきたアンナリーナは、プリンをお代わりしてアンソニーを喜ばせた。
大学院の執務室に戻ってきた、リーザロット・シャルメンタルは疲れ果てた身体をソファーに投げ出した。
……先日、この学研都市にやってきた少女は稀有なる存在だった。
「職種は【錬金薬師】と【召喚士】
【空間魔法】を操る大賢者の弟子。
とんでもない娘っ子だ」
膨大な魔力を有するが、それに耐えられないアンバランスな身体。
シャルメンタルは薄ら寒くなった。




