162『助け手』
「シャルメンタル卿、なぜあなたがここに?」
大学院の学院長シャルメンタルは、国内でも有名な魔法職でありS級冒険者だ。
実家は侯爵家で、領主の側近でもある。
「彼女は私の大事な客だ。
何という失礼な事をしてくれたんだ。
これは外交問題に発展するかも知れないぞ。
君のこの愚劣さは領主殿に報告しておこう。
リーナ殿、済まなかった。
早く休めるところに移動しよう」
何か言わんとする憲兵隊隊長を睨みつけて、シャルメンタル卿=学院長がテオドールを促した。
「しかし、シャルメンタル卿!」
「くどい!
それほど拘るなら、ちゃんとした理由があるのだろうな?
【錬金薬師】であるリーナ嬢が、まさか金ごときの為に隊商を襲ったなどと、馬鹿な事を考えているのではあるまい?」
「ひっ……」
【錬金薬師】はポーションの作製ができるため、巨万の富を得ることがができる職種だ。
現にアンナリーナも、大した手間もかけずにギルドに卸した際には最低でも3桁の金貨を得ている。
常識から言って、隊商への襲撃など面倒くさい事はせずにいくらでも稼げるし、そのような事に手を染めるのは快楽殺人者でしかあり得ない。
……実際は、方向性は違うが、容赦ない性格をしているのだが。
「卿、中央門の外に馬車を留めています。
出来ましたらそこで休ませたいと思います」
テオドールはまた熱が上がってきたアンナリーナを抱く手に力を込めた。
出来れば着いてこないでもらいたかったのだが、どうやらそれは叶えられそうになかった。
「その、リーナ殿はご病気なのか?」
憲兵隊本部から門までの僅かな距離にも馬車を使い、余計な騒ぎを起こさないよう配慮する。
活躍していたのはひと昔前とはいえ、S級冒険者だ、人々の注目を集めるのは当然である。
アンナリーナたちを巡る、先日からの理不尽な扱いと絡めて、口さがない領民たちの目から隠すための配慮と言えよう。
「卿ならご存知だろう、魔力の高い子供が度々高熱を発する症状を。
リーナは子供の身体のまま成長を止めてしまったので、時たまこのような状態になるのです。
今回は……いくつも国越えしてきたので疲れが出たのでしょう。
薬湯も飲んでいるので、本来なら明日には全快しているはずなのですが、この様子では数日かかりそうですね」
学院長の形の良い眉が吊り上がる。
馬車が止まったのはアンナリーナたちの馬車の前、シャルメンタルはその全容を見て、思わず瞠目した。
「移動用の住居を兼ねた馬車です。
リーナ、卿を招いてくれ」
張られた結界の質が変わる気配がする。
そのまま、テオドールに促されて先にステップを上がると、シンプルな座席とテーブルが目に入った。
「卿、奥の扉の向こうです。
アラーニェ、案内お願いする」
音もなく扉が開いて、アラーニェがカーテシーで出迎える。
「ようこそお出で下さいました。
こちらにどうぞ」
扉をくぐり、そしてシャルメンタルは呟いた。
「空間魔法持ちか」
目の前には、居心地の良さそうな居間が広がっている。
貴族出身の彼でも見たことのない、柔らかそうな革を使ったソファーを勧められ、腰を下ろしてまたびっくりする。
「やわらかい」
「卿、俺は先にこいつを休ませてきます。
アラーニェ、茶を頼む」
「かしこまりました」




