161『発熱と濡れ衣』
旅の疲れが出たのか今回はかなりの発熱で、アンナリーナは朝からベッドから出れない状態だった。
アラーニェが薬湯を運んでくる。
それと、体力回復の為に回復薬を飲んで、弱々しくベッドに横たわった。
「お薬が効いてきたら、お粥をお持ちしますね。お水はもう少し、ご辛抱下さい」
発熱のため、真っ赤な顔をしたアンナリーナが頷き、目を閉じる。
そんな主人の様子が不安で堪らないアラーニェは、先ほど出かけていったテオドールが早く帰って来るように、祈るような気持ちでいた。
一方その頃、憲兵隊の本部を訪れたテオドールは、最初から喧嘩腰の憲兵隊隊長にげんなりしていた。
まず、アンナリーナの同行がないことを悪し様に罵ってくる。
「探られたくない事があるから来ないのだろう!」
そんな風に怒鳴られて、とうとうテオドールはアンナリーナを連れて来ざるを得なくなった。
「そんな……リーナ様はまだ、お熱が高くて、とても動かせる状態ではありません」
憤慨したアラーニェに食ってかかられて、テオドールも戸惑ってしまう。
実は、一番怒っているのはこのテオドールなのだ。
高熱で上気させた顔で横たわるアンナリーナを仕度させて、テオドールは小さな身体を抱き上げた。
「軽いな……」
お互いに、あまり人前でいちゃいちゃする事を好まず、身内やどうしても知らさなければならなかった者たち以外はふたりの関係を知る者はいない。
だがテオドールはこの小さな賢者を心から愛していて、これからは心安らかに過ごせるようツリーハウスに主な居住の拠点を移すことを真剣に考え始めた。それか思い切って、大陸移住かだ。
「ん……? 熊さん?」
「起こして済まない。
あの憲兵隊隊長がどうしてもおまえを連れて来いと煩いんだ。
無視してもよかったんだが、そうすると俺たちを犯人に仕立て上げそうな勢いでな、少し我慢してくれ」
「はぁ……」
まだ熱の下がらないアンナリーナは、熱い吐息をついた。
アンナリーナを抱いて馬車から出たテオドールは、そのまま憲兵隊本部に向かった。
額に “ 冷え○た ”を貼ったアンナリーナは、襟ぐりのゆったりとしたロングワンピースを着てブランケットに包まれている。
その顔は熱で上気し、目は涙で潤んでいた。
一目見て具合が悪い事が察せられる様子に、憲兵隊隊長以外は眉をひそめている。
副隊長が何とか取りなそうとしていたが、隊長は聞く耳を持たない。
さらにアンナリーナに対する罵詈雑言は続く。
「両方の襲撃ともアリバイがあると言うが、おまえは召喚士なのだろう!?
自身が動かなくとも従魔たちに命令すればいくらでも悪事を働く事が出来るではないか。
さあ吐け! 自分が犯人だと認めるのだ!」
「そのような事を申されても、事実ではない事を認める訳にはいきません。
私たちにかまけているより、ちゃんと捜査なさった方がよろしいのではないのですか?」
「黙れ、黙れ、黙れっ!」
唾を飛ばして喚く様は、とても憲兵隊を率いるものには見えない。
アンナリーナは心の中で何度目かの溜息をつきながら、自分に【回復】を掛けていた。
正直、もう帰りたい。
「おまえたちの身元を保証出来る者もおらず、怪しい事この上ない。
副隊長、こいつらを牢に放り込め!」
高位冒険者を牢に入れるなど、ギルドに知れたら大変な事になる。
このふたりはS級とA級なのだ。
本来ならこのギルドカードだけで身元は保証されているはずである。
「何という無礼な事を!
リーナ嬢の保証人には私がならせて頂こう」
そこにはこの茶番を聞いて慌ててやって来た、リーダロット・シャルメンタルが立っていた。




