156『野営地の夜』
「やはりそうですか……」
アンナリーナは考え込んだ。
魔獣の襲撃のように馬車などが壊されているが、それにしては犠牲者が少なすぎる。
あの状態なら全滅していてもおかしくないのだが、犠牲者は殆どが冒険者だった。
隊商であったなら商人や下働きの者たちがいるはずだが、数が合わないのだ。
そしてもうひとつ、隊商なら商品が運ばれていたはずなのに、それがまったく見かけられない。
まるでそのことを隠すために馬車を粉々の瓦礫にしたようだ。
「ジルさん、あと4人の方の治療はどうしましょうか?
あなたは、私が話を聞きたかったので勝手に治療してしまいましたが、有料のポーションを使ってしまって良いものか……ひょっとしたら傷薬で治そうとなさる方もいらっしゃると思うので手を出してないんです」
それは暗にポーションを使ってしまって代金を回収できるのか、と問うているのだ。
こればかりは意識を回復した本人に聞かねばわからない。
「リーナ嬢、俺をそいつらのところに連れて行ってもらえないだろうか。
その4人が誰なのか確認したい」
治療のため、1人だけ違うテントにいたジルを、あとの4人が寝かせられているテントに案内する。
その際、積み重なった瓦礫と少し離れたところのテントが目に入った。
「こちらよ。
痛み止めや化膿止め、造血剤は処方しているわ。そっちは大した値段じゃないからね」
招き入れられたテントは外からの見た目と中の広さが違う、アンナリーナ特製の魔道具だ。
その中に入って一瞬戸惑ったジルだが、すぐに横たわっている仲間たちの元に駆け寄った。
「サリトナー、メイルにイアン、それにバルトリさん!」
ジルがさん付けで呼んだ男は、一般の旅装姿だった男だ。
「バルトリさんは隊商に所属する、アシードの商人だ。
アシードでは比較的、大店の主人なので、まず彼を治療してくれ」
ジルも雇用者がいた方が心強いのだろう。アンナリーナとしても事情を知る者が増えるのは歓迎だ。
「ではポーションを使います。
ジルさんは何か食べた方がいいよ?」
だが、ジルはかぶりを振った。
ここで、皆が目覚めるのを待つようだ。
アンナリーナはこの中で一番傷が深く、命が危うかった商人バルトリの上体を起こし、その口に初級ポーションCの瓶を押しつけた。
ゆっくりと瓶を傾け、口に注ぎ込んでいく。
彼は上手に飲んでくれたので、ほとんどこぼさずに済んだ。これで、もうすぐ目を覚ますだろう。
夜が明けて、野営地の全容が明らかになった。
生存者を救助するため、馬車の瓦礫は移動させたがその悲惨さは筆舌に尽くしがたいほどだ。
そして犠牲者の遺体の回収も同時に行われていて、布に包まれた遺体は専用に張られたテントに安置されていた。
そして、朝までに他の者たちにもポーションが与えられ、今は5人揃って消化のよい朝食……パン粥が与えられていた。
その食後、アンナリーナは改めて聞いてみる
「思い出すのも嫌かもしれないけど、聞かずにおけるものではない。
【盗賊団】に襲われたと聞いたけど、詳しく聞かせてもらえる?」




