151『実は編入試験だった?』
まずは暦学……いわゆる歴史だ。
これはこの国【アルゲオン王国】の歴史であり、昨日図書館でエドワルド王関連とはいえ、ひと通り目を通したアンナリーナにとってさほど難しいものではない。年表様式になっている問題用紙の空欄に、そのまま書き込んで提出するようだ。
ただ、アルゲオン暦を大陸共通暦に直す問題は、少し骨が折れた。
次の語学は、大陸共通語、インドゥーラ語、古代エレメント語の習熟度を確かめる問題のようだ。
確かに図書館の使用を許可する場合、相手の語学習熟度を知っていれば案内しやすいだろう。
こんなところにもアンナリーナは感心しきりであった。
算術の問題は特徴的だった。
それはアンナリーナが前世日本人だったためだが、この問題の作り方は欧米などのそれに近い。
例えばこの問題。
1569539+□=5838474
□の数字を答えよ。
□×395=221990
□の数字を答えよ。など。
『大して難しい問題ではないけど、慣れないと戸惑うかもね』
アンナリーナは簡単に解く事が出来たが、時間がかかることを見越しているのか、初めから問題の数が少なくなっている。
そろばんの段持ちであるアンナリーナには、あっと言う間に計算を終え、改めてエドワルディ大学院のレベルの高さに感心していた……のだが。
ノックの後、慌ただしく入ってきた女性が試験の監督をしていた男性の耳許で何事か囁き……目を見開いた男性は慌ててアンナリーナに向き直った。
「リッ、リーナさん!
申し訳ございませんでした!」
アンナリーナは何が起きたのか理解不能で、キョトンと呆けている。
「リーナさん、実は本日、登校では転入生の試験が行われる予定がありまして、ちょうど訪問されたリーナさんをその転入生と勘違いしてしまい……」
道理で問題が難解な筈だ。
「はあ……
いえ、大丈夫です。
なるほど、納得です。
……実はですね、今日私はこの大学院の図書館を開放していただけないかと訪問させていただいた訳で。
あ、これは身分証明証です」
差し出されたギルドカードを受け取った監督官がまた、目を見張る。
「錬金薬師殿……」
場所を変えて、改めて担当の文官と向き合っていたアンナリーナは、素朴な疑問を口にした。
「それで、その試験を受けられる転入生の方は?」
てっきり、その転入生がやって来たから誤解が解けたのかと思えば。
「実は先ほど緊急の鳩便が来て、こちらに向かっていた街道でトラブルがあって、現在通行止めだそうです。
彼はやっとひとつ前の町に戻って鳩便を使って遅れる事を連絡してきたのですよ」
何やら、凄いタイミングで訪れてしまったようだ。
アンナリーナは居心地悪そうに浅く椅子にかけ直し、そして腰を上げようとした。
「あの、また後日出直して参りますので、本日はここまでと言うことで」
「いえ、少々お待ちいただけませんか?」
見覚えのある女性……受付にいた女性が紅茶のセットを運んできた。
それをアンナリーナと文官の前に置いて、退出していく。
「ええっと、私は図書の閲覧の許可さえいただければそれで」
「本当に、本当にしばらく」
そそくさといとまを告げ、退散しようと扉に向かったアンナリーナを遮るように、いきなり開いた扉の向こうには見上げるほどの大男が立っていた。




