150『大学院訪問』
順調な回復を見せたアーサーに、もう大丈夫だと太鼓判を押し、さらに念のためいくつかの丸薬を渡して、アンナリーナは自分の興味に全力投球する。
今日のアンナリーナは魔法職の正装、ローブを着け、中の装いにも気を遣った。
ラベンダー色の、ペーズリー柄の地模様のあるアラクネ絹のロングワンピース。
これは細身のシルエットで動きやすいように左の膝上までスリットが入っている。
中のレギンスは黒、同色のショートブーツを履いている。
腰にはいつものミスリルの飾りベルトと、それにつけられた小型のポーチ。アイテムバッグはその中に収められている。
アクセサリーは控えめなチェーンとブレスレット。
全体的には地味だが見るものが見れば……という品々だ。
「では、行ってきます」
この宿に滞在して3日目、もうすっかり馴染んでいる。
女将に、にこやかに挨拶して、アンナリーナは今日もひとりで出かけていった。
ちなみにテオドールは早朝からギルドで依頼を受けて、外の森に出かけている。事と次第によってはさらに奥の、魔素の濃い、いわゆる【魔の森】まで足を延ばすかもしれない。
ひょっとすると泊まりになるかもしれないとの事だったので、アンナリーナは彼の位置確認を気遣う事にする。
アンナリーナがこれから向かう、エドワルディ大学院は、学研地区の奥にあるため、市街地との境にある門で検問を受けなければならないので馬車で向かうことを勧められていた。
宿の前に馬車が停まっている。
女将が呼んでくれたその馬車に乗り、大学院に向かうと、途中の検問ではギルドカードを見せるだけでほぼ、フリーパスで通してもらえた。
大学院に着くと、石造りの立派な建物が並んでいた。
御者に事務棟を教えてもらうと、アンナリーナはそちらに足を向けた。
中世ヨーロッパの教会建築のような外観の、大学院の顔とも言うべき建物は巨大な扉が開かれていて、訪れるものを拒まずにいてくれる。
アンナリーナは数段の階段を登り、ポーチを抜けて建物に足を踏み入れた。
正面に、総合受付だろうか、ひとりの女性が机に着いていた。
「おはようございます」
アンナリーナが声をかけると、俯いて書き物をしていたその女性が顔を上げ、立ち上がってこちらに向かってくる。
「お待ちしていました。どうぞこちらへ」
アンナリーナが今日、ここに訪れる事は知らせていない。
なのに待っていたとは、アンナリーナは戸惑っていたが、受付の女性は待ってくれない。
急ぎ足で奥に向かう彼女を追いかけるように、アンナリーナも小走りで続いた。
そして着いたのは無人の教室で、ひとりの女性が書類を前にして待っていた。
「ようこそ。
早速ですが、こちらの書類を書いてもらえますか?」
アンナリーナが何かを言う間も与えず、差し出された書類にはびっしりと項目が綴られている。
勧められたペンを断り、自前のペンを出すとひたすら書き始めた。
「ありがとうございます。
少々、お待ち下さいませ」
その女性が部屋を後にするのを見送りながら、さすがに高度な教育を施す大学院は見学するのも大層だと、しきりに感心していた。
「ようこそ、リーナさん」
次にやってきたのは、見た目40代くらいの男性。この、見た目と言うのは、この世界では見た目通りの年齢でないものが多いためだ。
そう、例えばアンナリーナのように。
「こんな場所で申し訳ないが、いくつかの問いを解いて欲しい」
再び、さすがは大学院だ。
アンナリーナのような、ただの見学者にも、その見学に相応しい知識を持っているか、確かめるようだ。
アンナリーナは用紙を引き寄せた。




