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140『二度目の乗り合い馬車の旅』

「おはようございます。

 今日からお世話になります」


 早朝、アンナリーナたちは改めて、今日からひと月以上世話になる御者と護衛たちに挨拶していた。


「夜の見張りの番の、数に入れてくれて構わない」


 テオドールもそう言って、首だけで会釈した。

 見るからに高位の冒険者であるテオドールの申し出は、その場の御者と護衛たちに好印象を与える。

 他の乗客の、誰よりも早く姿を現したふたりは、昨日まで乗ってきた客が座っていなかった場所を聞き、慎重に座る場所を定めた。




 あたりがまだ薄暗いころから準備を始めたのは、乗り合い馬車の運行をしている組織に所属している御者と、定期的に雇われている冒険者たち……そのうちのひとりは交代で御者を務める……を含む4人だ。

 ほとんどの準備は昨夜、終えているため、今は馬車に馬を連結して乗客を待つばかり、だった。


 そこに、一番に現れたのは、この村から新規で乗り込んでくる、少し変わったふたり連れ……見るからに高位のオーラを持つ大男と、年端もいかぬように見える少女だ。

 気さくに挨拶してきた少女は、長旅の割には軽装だったが、他の女性客がロングワンピースを着ているのに対して、チュニックにレギンスとブーツと言う、旅慣れた格好をしていて好印象が持てる。

 そして大男の方だが、冒険者としての目で見てみて、とても叶わないと怖気を振るった。

 彼らは空いている席を確かめ、そこに腰を下ろす。

 そこは入り口に近い、護衛の席に限りなく近い場所だがお構いなしのようだ。




「熊さん、そろそろお弁当を受け取りに行ってくるね」


 すっかり夜が明けて明るくなってきたころ、アンナリーナが立ち上がり馬車を降りていった。

 そして、注文していたもの以外にも、また買い込んできた彼女に、テオドールは呆れた顔をする。

 アンナリーナの買い物好きは今日始まったことではないが、こと食に関しては容赦がない。


「もし余ったら、全部まとめて引き取る約束をしたの」


 そう言って笑った。



 アンナリーナは既視感に捉われていた。

 ……2年前、初めて乗り合い馬車に乗ったときはセトと一緒だった。

 今回はそのかわりにテオドールと一緒だったが、それでも似た造りの馬車や冒険者たちを見ると、嫌でも思い出してしまう。


「リーナ? 大丈夫か?」


 少し顔色が悪く感じるアンナリーナの頭の上に、大きな掌を乗せて撫でる。


「うん、ちょっと……ごめん」


 あの乗り合い馬車とは違う。

 冒険者たちも御者もまったく似てもいない。

 それでもまた思い出すのか……

 アンナリーナもテオドールもが、思考の海に沈んでいく。



 乗り合い馬車の運営側には好印象だったアンナリーナたちだが、従来の乗客たちにとってはどう感じ取られたのだろうか。

 本人たちは最低限の挨拶を済ませ、最後の客が乗った後は約束だった買取をして席に収まっている。

 そんなふたりを乗客たちは、不躾にもジロジロと見つめていた。


 色鮮やかな花柄のチュニックがどれほど場違いなのかわかっているのだろうか。

 女たちは忌々しい思いで、男たちはアンナリーナの履くグレーの編み上げブーツの素材を思い、戸惑いを隠せない。

 鱗の柄が示すのは、おそらくそれが竜種のものであろう事。

 隣に座るテオドールの皮鎧も上位竜の皮を素材に作られたものだ。

 傍に立てかけられた戦斧は、恐ろしくて最早目に入れたくもない。


「では出発します」


 護衛の1人が扉を閉め、軽く鞭のしなる音がする。

 馬車が揺れ、静かに動き出した。


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