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111『グラタンと事の成り行き』

「ユングクヴィスト様〜?」


 元々、準備室だった部屋から、いつも居間兼用として使われている研究室に現れたアンナリーナは、何かいつもと違う様子のユングクヴィストを見て立ち止まった。


「……何か、ありました?」


 表情が固まってしまっているユングクヴィストがゆっくりと身体を動かす。


「リーナか、ちょうどよいところへ……いや、よいところではないか」


 この時、アンナリーナは嫌〜な予感がした。

 思わず身を竦ませてしまう。


「まあ、そこに座れ。恐らく話は長くなる」


「では、よいタイミングなのでお茶にしましょう。

 ユングクヴィスト様、今日は何を召し上がりました?」


 本題の前に、グッと言葉に詰まったユングクヴィストは首を傾げている。

 お茶と一緒に軽食を考えていたアンナリーナだが、しばし考えてアイテムバッグから耐熱容器を取り出した。

 小型のキャセロールのような容器の中には、美味しそうに焦げ目のついたマカロニグラタンが湯気をあげていた。


「これは熱いですから気をつけて下さいね」


 スプーンやフォーク、水を飲むためのグラスなど、どんどんテーブルの上に出されていくさまを見て、ユングクヴィストは言葉もない。


「野菜は……トマトくらいしかないわ……お仕事中なのでお水で辛抱して下さいね」


「リーナ、これは?」


「ユングクヴィスト様はちゃんと召し上らなくてはいけません。

 今回はあり合わせですが、このグラタンは自信作です」


「うむ、美味そうじゃ」


 さっそくスプーンを取り上げ、ベシャメルソースを掬い、一口。


「これは、何と」


 賽の目切りにされたハムとマカロニ、それに蕩けたチーズを絡めてまた一口。


「これは初めて食べたぞ」


 こうなると、もう止まらない。

 貴族としてのマナーを放り出し、忙しなくスプーンが動き出す。

 アンナリーナはそっと、アイテムバッグから水差しを取り出し、グラスに水を注いでユングクヴィストの前に置いた。


「気に入って頂けて良かったです」




「さて、本来の話題に戻ろうかの」


 すべてを平らげたユングクヴィストは、最後にナプキンで口を拭いてアンナリーナに向き直った。


「はい、聞かせていただきます」



 そこから時系列に沿って話されている出来事が進むに従って、アンナリーナの顔つきが厳しくなる。


「寮監様がそんな事に……みんな私のせいですね」


「そなたは関係ない。

 件の王女は今、随行の者たちと共に行方をくらましておる。

 ……恐らく自国に戻ろうとしておるのだろうが、はたして無事に帰りつけるかの」


 どうやら身の回りのものだけを持って、護衛もなしに旅立ったらしい。


「迷惑だけかけにきたのですね。

 しっかり賠償はとらないと」


 お尋ね者になった女騎士をかばって、学院を出奔したようだが、往きの騎士を引き連れた一行と違い、護衛もない馬車一台……無事で済むようには思えない。


「今は “ 国 ”が表に立って、あちらと交渉しておる。

 これは正式な謝罪と、罪人である女騎士の引き渡しと、金貨2000枚の支払いを要求しているのじゃな」


 アンナリーナとしては、その程度かと思う。

 これは全力で嫌がらせをしてやろうと、心の中でほくそ笑んだ。


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