103『商人イーベンへの招待』
アンナリーナはずいぶん前からその存在に気づいていた。
近寄って来ていた馬車?が困惑ぎみに止まり、そこから1人が偵察にやって来た。
今はその人物が馬車に戻り、こちらに向けて進んでくる。
「リーナ?」
従属はしたが所詮ただの人間であるテオドールだけが未だ、気づいていないが、他の従魔たちはすべて、食しながら警戒を怠らない。
「うん、馬車がやって来るね」
「どうするんだ? 姿を隠すのか?」
アンナリーナとテオドールの様子を、皆が覗っている。
「今更だし?
悪意は感じられないから普通に受け入れようと思う。
……ついでだからご馳走してもいいかな? ちょうど、私らとは反対方向からやって来るようだし、何か情報が得られるかも」
アンソニーがまた肉を切り始めた。
「これは……」
御者と共に御者台に乗ってやって来たイーベンは我が目を疑う光景に絶句した。
「マジかよ……?」
馬車に伴走していた冒険者ベルトが、思わず呟く。
彼らの前には野営地があるのだが、そこは最早見知った野営地ではなく、まるで昼間のような明るさで賑やかな食事会が行われていた。
そして、その面子に言葉を失う。
「人と魔獣……?」
そろそろと馬車の集団は野営地に入っていく。
彼らはロッジ型のピットの近くに馬車を止め、チラチラとアンナリーナたちの方を覗っていた。
すると、集団の中から1人の少女がもの凄い美人を連れてこちらに向かって来る。
「こんばんは」
その少女は夜の冷気から守るような、立襟の膝下までのチュニックを着てレギンスを履いている。
その足元はブーツではなく室内履きのような凝った刺繍の施された布張りの靴を履いている。
その首には護符だろうか、シンプルだが見るからに高価そうな首飾りが輝いていた。
茶色と金色の混じった特徴的な髪と瞳の少女。
付き従う女は艶麗な美女で、国王の後宮でもなかなか見かけられないほどの美貌だ。
「他に誰もいなかったので好きにしていましたが、ご迷惑でしょうか?
……そうだ! もしよろしければご一緒なさいませんか?
食材はいくらでもありますし、お酒は出せませんけど。
あと、私の従魔たちが気にならないのなら」
その言葉を聞いて、誰よりも冒険者たちが喜びの声を上げた。
アンナリーナの案内でやって来た一行は、間近でその状況を見て、また絶句した。
見たこともないコンロが並び、肉がジュージューと美味しそうに焼けている。
「食器は自分で用意してくださいね。
水差しには冷たいお茶が入っています。あとはご自由にどうぞ」
居心地が悪いだろうと、テーブルと人数分の椅子を用意しコンロを指差した。
そこではアンソニーが大量の肉を焼き始めている。
「うちの子たちはほとんどお肉しか食べないけど、お野菜とかパンとか要ります?
アラーニェ、パンとじゃがいもを持ってきてあげて」
てきぱきと指図をしていたアンナリーナの一瞬の隙を突いて、今まで圧倒されていたイーベンがようやく話し始めた。
「お嬢さん、この度は多大なご好意、本当にありがとうございます。
うちはこんなに大所帯なのに快く受け入れて頂き本当に申し訳ない」
イーベンは商人なので例え相手が少女でも腰を低くする事に忌避感はない。
「こちらが野営地を占有していたのですからお気遣いなく。
……商人さんは、よろしければ私たちのテーブルにいかがですか?」
指し示されたのはヒト族の大男、ドラゴニュート、そしてドワーフが座っているテーブルだ。




