100『アンナリーナの懸念』
さすがにヤルドは通商都市を名乗るだけあって入場からして他と違った。
検問の入り口は2つに分けられ、それぞれ一般と商人に区別されている。
一般の方に並んだアンナリーナたちはしばらくして兵士と対面した。
王都の中央門と同じくらいの規模の門には、詰所だけでなく兵たちの居住地も備えられているようで多数の兵士が行き来している。
それゆえなのか一回一回の対応がスムーズで、行列はどんどん捌かれていく。
「はい、次ー。
これは立派な馬車だなぁ。
身分証を拝見します」
彼は、Sランクの冒険者と、薬師の組み合わせに一瞬、目を見開いた。
「ありがとうございます」
しかし、ここで騒ぐことはなく、あっさりとアンナリーナたちを通してくれた。
事、薬師の場合、その存在が知られると余計な騒動が起きてしまうかもしれないのだ。
こんな往来でそれは避けたい。
「少しギルドに寄りたいのですが、どこにあるでしょうか?」
大体ギルドは、その町の門の近くにあるのだが、ここからは見当たらない。
「ギルドはここを道なりに進むと、中央広場にありますよ。
依頼ですか?」
「いえ、出来れば簡単なものでいいので地図が欲しいのです」
「それなら詰所でも販売していますよ」
一度中に入って、馬車留まりにエピオルスを繋ぎ、アンナリーナとテオドールは詰所に入っていった。
「ようこそ。
おふたりは地図を入用とか。
もしよろしければその理由を聞いても?」
これは聞かれても不思議だとは思わなかった。
アンナリーナが読んだことのあるラノベでは、地図は禁制で手に入れること自体罪になるケースもあった。
ここは通商都市なのでその危険性は少ないだろうと思っていたが、まさかここで入手出来るとは思わなかった。
「こんにちは。
私は薬師なのですが、色々な土地の薬草を調べ、採取しているのです。
これから西に向かい国境を越えようと思っているのですがこのあたりの地図はまったく持っていなくて、大まかなものでも手に入れられないかと思いまして」
一応警戒されていたのだろう、隊長らしき人物が現れ、アンナリーナたちの話を聞いてくれ、すぐに数種類の地図が運ばれてきた。
その中から、アンナリーナが選んだのは、この国の全体地図と、多少デフォルメされた大陸地図だ。
そして最後に西門への道順を聞くと、あっさりと出発する。
「熊さん、このまま西門を抜けて、この町から遠ざかりたいのだけど、いい?」
「珍しいな、買い物はいいのか?」
「うん、それよりも身動きが取れなくなる方が拙いから」
昨夜遭遇した冒険者たちはもう、最寄りの町に着いているはずだ。
そして彼らの報告がギルド経由でこの町に伝わってくるのも時間の問題だろう。
そうすると冒険者に対して、魔獣の危機が過ぎるまで移動の制限がかかる可能性がある。
「だから速攻でトンズラじゃん」
そして今、アンナリーナたちは西方街道沿いの野営地にいる。
エピオルスを飛ばして、ヤルドからなるべく離れた場所で野営する事にした。
そこにはロッジに似た小屋があって、旅人の緊急避難的な場所になっていて、今夜も数人が利用しているようだ。
アンナリーナたちは日没後に到着したため、彼らと顔を合わせていないが、途中馬の世話に出てきた御者とは一言二言、言葉を交わした。
「熊さん、今の御者さんの馬車はヤルドを朝一に出発してきたみたい。
あまり接触しても旨みはないと思うけど……どうする?」




