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98『憧れの馬車旅』

 片方は鬱蒼とした森、もう片方は雑木林を目にして、2頭のエピオルスは並足で進む。

 御者台にはテオドールとアンナリーナ。

 その頃、セトたちは魔獣の森で薬草採取に勤しんでいる。




 街道とは言っても辺境に近い田舎の道だ。

 そんな荒れた地面をエピオルスたちは軽々と進んでいる。

 アンナリーナの【マップ】でもこのあたりは真っ白で、進むに従って記載されていく。


「リーナ、さっきの町を通り過ぎて良かったのか?」


「うん、たぶんあそこが……私が生まれた村から一番近い町だったと思うの。だからこそ、村の生き残りが移住している可能性もあるし、その連中には会いたくないので、出来ればもう2つくらい離れた町に寄りたい」


「それは構わないが」


「うん、今夜は野営かな?」


「ツリーハウスに戻ればいいだろ」


 ふたりは顔を見合わせて、クスリと笑った。



 夜闇のなか、結界に囲まれた馬車の傍らに火を熾し、アンナリーナとテオドールは普通の野営のように座っていた。

 春とはいえ夜は冷える。

 夕食には暖かなクリームシチューを選び、ホカホカのケバブに細く刻んだレタスやトマトをオーロラソースで和えたサラダ。

 硬い目に焼いた黒パンを添えて、今夜は少しだけビールも出した。


「熊さんと二人きりって初めてじゃない? こういうのもたまにはいいね」


 シチューのホクホクのじゃがいもをスプーンで割って、フーフーと息を吹きかけ冷まして口にする。


「このじゃがいも、美味しい。

 アグボンラオールで大人買いして良かった」


 市場の商人の倉庫にまで押しかけて、買い付けたじゃがいも。

 前世での男爵芋に近い品種のこれは、煮込み過ぎると崩れてしまうが、そのかわり食感はホクホクとしていて絶品だ。ほのかな甘みはアンナリーナ好みで、マッシュポテトやポテトサラダにしても美味しいだろう。

 そしてアンナリーナは肉じゃがに思いを馳せる。


「リーナ」


 どうやらこの幸せな時間を邪魔するものが現れたようだ。



 結界を不可視のものに変え、アンナリーナたちは様子を伺った。

 不審な気配を感じ、セトが馬車の中から現れる。


「魔獣……ではなさそうだな。

 主人、どうします?」


 セトが暗闇をジッと見つめるなか、テオドールが戦斧を手にした。


「人間のようだね。

 敵意はなさそうだけど、こちらに気づいてないだけかもしれないし……ちょっと注意しようか」


 そう言いながらも食事は続けているアンナリーナを見て、テオドールはまた腰を下ろした。


「あちらからは見えないんだし、まあ高レベルの魔法職がいたら結界に気づくかもしれないけど、それだけだよ」


 だからそのビールを飲んでしまっていいよ、と言われテオドールは苦笑する。

 不寝番はネロとその配下に任せる事にして、アンナリーナはサラダを口にした。




 その一行の足取りは鈍く、その装備もボロボロな状態だった。

 中には怪我をしているものもいて、ようやく “ 現場 ”から逃げ出してきたと思われる状況だ。

 だが、アンナリーナは即座に関わらない事を決め、無視する事にする。

 一体何があったのか情報収集はするが、それだけだ。



「おい、何かおかしい……

 ちょっと待ってくれ」


 見るからに魔法職な男が声をかけ、一行は足を止めた。


「近くに何かある。

 目には見えないが、魔力の歪みがある。なんだろう……」


 思わず、アンナリーナは舌打ちしてしまう。

 このまま気づかず通り過ぎてくれれば良かったのだが、そうはいかないようだ。


「まあ、こちらから声をかけなければ見られる事もないし、ほっときましょう」


 彼らがいかに疲れていようと、たとえ怪我人がいようと今回アンナリーナは関わり合いになるつもりはない。


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