97『蛇穴』
アンナリーナはダンジョン自体ではなく、それに付随して起きる大氾濫を危惧していた。
デラガルサでは、周辺でその兆しが見えているように思えるし、今目の前の蛇穴がその噴き出し口になり得るかもしれないと言える事である。
「取り敢えず、ここは狩れるだけ狩って在庫を減らそう。
私たちだってそんな奉仕活動ばっかりしてられないし、ポーション渡したら後は自分たちでやってもらうしかないよね」
そう言って何度目かの蛇団子を屠り、インベントリに納めていた時、ナビの警戒の叫びと穴の底からの強い殺気を感じたアンナリーナが飛び退るのは同時だった。
「何事?!」
「熊さん!退いてっ!」
間髪入れず、セトとイジが前に出てアンナリーナを後ろに下がらせた。
彼らはすべての状態異常に絶対耐性がある。
「メドゥーサよ!
私が殺るから下がって!!」
ふわりと【飛行】で体を浮かせ、浮遊しながら穴に近づいていく。
……メドゥーサとは3つの頭を持つ大蛇である。
その名の通りこの蛇の視線には石化の効果がある。
石化をもたらす魔獣の最高位とも言えるこの大蛇は、その姿を表す事自体とても珍しい。
それ故、貴重な薬の材料となり、その身体は捨てる所が無いと言う。
「いや〜 びっくりしたけど良いものが手に入ったね!
これならもう少し、ここに腰を落ち着けて蛇狩りしても良いかもね」
時間はたっぷりとあるのだ。
蛇穴の周りの木を切り倒し、それなりの空き地を作って馬車を出す。
そして監視をしながら、アンナリーナはツリーハウスの調薬室でポーションや薬を大量に作り始めた。
今はまだ蛇穴から蛇魔獣が出てくる事はなく、テオドールやイジなどが交代で監視の任に当たっていた。
そしてその結果、10日間湧き出る蛇を狩りまくり、最後にメドゥーサが4尾……それもその中の1尾は頭は2つだが蛇穴に収まりきらないほどの大きさのものが現れた。
空中からのサファケイトで、完全に沈黙したメドゥーサを見下ろし、アンナリーナはうふふと笑う。
この後丸一日監視して、蛇が出現しなかったので、アンナリーナたちはここを離れることにした。
アンナリーナたちはここから一度王都に戻り、ギルドにポーションや薬を売って新たな国に向かおうと思っている。
ツリーハウスのある魔獣の森を抜けて、アンナリーナの住んでいた国を抜け、その西に向かうつもりでいた。
「リーナ、その……大丈夫か?」
テオドールは、アンナリーナが自国で酷い扱いを受けていたことを知っている。それを踏まえて心配しているのだ。
「別に村にいくわけじゃないし……
大丈夫だよ?」
アンナリーナのいた村はもう森に呑み込まれてしまっている。
おそらく街道に至る道も閉ざされていることだろう。
「実は私も村から出た事がなかったんだよね」
だから反対に楽しみだ、と笑った。
ツリーハウスから魔獣の森を突っ切って街道に現れた場所は、アンナリーナの住んでいた村よりもかなり北……王都寄りであった。
そこから馬車を出し、しばらくは北に向かう。
アンナリーナはもちろん、テオドールもこの国の地理に明るくないので、このまま街道を走り町に向かう予定だ。




