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94『逃走』

『熊さん、今どこ?』


 アンナリーナからの念話が入り、そしてそれが今まで聞いたこともないような緊迫した様子に、テオドールは眉間に皺を寄せる。


『アーネストたちとクランハウスの近所の酒場にいる。どうした?』


『あのね、熊さん、よく聞いて。

 今すぐそこを出て、すぐにツリーハウスに戻って来て。

 途中、誰に話しかけられても、クランに誰か訪ねて来ても無視して。

 お願い、早く戻って来て!!』


 最後は悲鳴に近くて、内心は焦ったが落ち着いて立ち上がる。


「悪い、野暮用を思い出した。

 ちょっと行ってくるわ」


 すまないな、と断って金貨を3枚置く。そしてテオドールはゆっくりと歩き出した。

 クランハウスに着いてしっかりと内側から鍵をかけて、階段を登り始めた時扉を叩く音がする。


「御免、誰かおられるだろうか!」


 ドンドンと叩きながらしつこく声をかけてくる。

 いつものテオドールなら、戻って扉を開けてやるところだがアンナリーナにきつく言われているので無視をして自室に入った。

 元より転移の為の地味な部屋だ。

 大したものは置いていないが目に付いた戦斧などを回収すると転移陣に乗った。

 何となく、もう二度とここに戻って来ないような気がして周りを見回す。

 アンナリーナの従属となって、今まで制限されていた転移などもひとりで行えるようになっていた。



「熊さん!!」


 ツリーハウスに戻ってきたテオドールの、その腰に突進してきたアンナリーナに抱きつかれてたたらを踏む。


「リーナ、一体どうしたんだ?」


 目に一杯涙を溜めて見上げるアンナリーナに、テオドールはクラクラする。


「熊さぁ〜ん」




 アンナリーナから詳しく話を聞いたテオドールは激怒した。

 そして同時に、アンナリーナが過剰なほど反応した理由も理解する。


「俺が狙われるって言うのか」


 すでに接触は試みられている。

 あの、クランに訪ねてきたのはその手の者なのだろう。


「うん、ごめんね……

 今、アラーニェが寮の部屋を片付けてるの。それがすんだら暫くハルメトリアには近づかないつもり」


「……そうだな、その方がいいだろう。アーネストたちにはハンネケイナ経由で伝言を頼もう。

 少し付き合ってくれるか?」


「うん、私も王都のギルドに伝言頼みたいからギルドに行きたいし」


 今ならまだ、ハンネケイナに連絡は行っていないだろう。

 ふたりはすぐにハンネケイナに飛び、それぞれの用を済ます。

 ギルドマスターはびっくりしていたがすぐに状況を理解してギルド間の連絡を請け負ってくれた。


 そしてハンネケイナを後にしたふたりはツリーハウスへと向かう。




 実は、この度の件は完全に勇み足だった。

 国王はおろか、本人すら何も知らないうちに、従卒から話を聞いた王弟の側近たちが先走った結果、アンナリーナは逃亡した。

 それを聞いた国王は頭を抱え、そして激怒したという。


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