93『再生治療』
本来なら衛生面を考えて、このような雑魚寝状態ではなくちゃんとした治療室で施術するべきなのだ。
だが、もう動かすことすら出来ないほど彼は弱っており、むしろよくここまで保ったと思うべきであるかもしれない。
西の森から約1日。
荷馬車に横たえられた彼につきっきりで【回復】魔法をかけていた治癒魔法遣いたちの存在がなければ、彼の命はとっくに儚くなっていただろう。
それでもアンナリーナが診た時には、本当にギリギリだった。
アンナリーナは取り出した【劣化版アムリタ】を一瞬見つめて、覚悟を決めた。
これをこの場で使うと言うことは、この先平穏な暮らしを望めなくなると言うことだ。
たとえ【劣化版】と言えど【アムリタ】なのだ。
古から神薬として語り継がれてきた奇跡の薬。
死者さえ甦らせると言われてきた薬の劣化版とは言え、欠損した四肢を再生させれば周りにはどう映るだろうか。
まずは吸い飲みに移した【劣化版アムリタ】を、患者の口に注ぎ込んでいく。
1本、2本、3本を慎重に飲ませたアラーニェは、アンナリーナと目で合図を交わし、いつでも患者の身体を押さえつけれるように位置についた。
まずは右腕だ。
二の腕の真ん中あたりで食いちぎられていたそこに深めのトレーを置き【劣化版アムリタ】を患部にかけていく。
すると、即座に変化が訪れた。
寸断されていた骨が見る見る再生されていくさまは、人体の構造を知らないものが見たら畏怖すら覚えるだろう。
さらにその骨を中心として、血管や神経が再生されそこに筋肉や脂肪が付いて皮膚が修繕されていく。
まるでCGを見ているような、その奇跡に、患者にたったひとり付き添うことを許された従卒は言葉が出ない。
「下肢の再生は少し休憩を挟んでからにしましょう。
いくら鍛えてらっしゃると言っても、これ以上は体力が持ちませんからね。
あなたも少しお休みになられてはいかが?」
この場はアラーニェに任せ、アンナリーナは次の患者の元に向かった。
この医療院には彼の他にも重篤な患者がいる。
その場凌ぎになるが、ポーションを与えられ時間稼ぎしていた患者に適切な治療(投薬や【治癒魔法】)を施していく。
その時点でユングクヴィストなどは、アンナリーナが【治癒魔法】を使う、所謂【錬金医薬師】ではないかと疑っていた。
ますますアンナリーナの居心地が悪くなっていく。
翌朝、少しの仮眠をとったのち、アンナリーナはあの “ 閣下 ”と呼ばれた患者のいる個室に向かった。
彼はまだ意識を回復していなかったが、アンナリーナとしてはその方が都合がよい。
実は、昨日は昏睡状態で多少捥がくほどであったが、欠損部位の再生は激痛を伴うのだ。
「さて、この方が目覚められた時にはすっかりもと通りになっているように、始めましょうか」
昏睡が解けかかっているのか、彼は暴れた。
従卒とアラーニェの2人で押さえつけ、どうにか再生し終えた頃には、皆が汗だくだ。
特に従卒の彼は放心状態で、こちらの方に治療が必要になるかと心配するほどだった。
そしてそんな中、アンナリーナたちはトンズラする。
もうこの頃になると、今回の患者たちはすでに治療が終わっていて、あとは一部のものに投薬を続けるだけ。
アンナリーナは追加の上級ポーションを置いて、医療院を離れた。
後日、あの “ 閣下 ”が王弟殿下だと知ったアンナリーナは、同時にもたらされた婚約の打診に怒髪天を衝くほど怒り狂った。




