92『医療院』
「それで、どういう状況なんですか?」
ユングクヴィストが従者を呼んで支度を始める。
「もうすぐ学院に付属する医療院に、まずは重傷者が運び込まれてくる。
彼らの容態は予断を許さぬ状態だと言う……リーナ、ポーションをあるだけ頼む」
「はい、わかりました」
アンナリーナのアイテムバッグには、昨日調薬したばかりのポーションがそのまま収納されている。
その他、痛み止めや軽傷の場合の傷薬なども用意出来ていた。
「ユングクヴィスト様、アラーニェも連れて行ってよろしいでしょうか?」
「おお、人手はいくらあってもよい。
ぜひにお願いする」
アンナリーナは念話でアラーニェに呼びかけた。
駆けつけた医療院は、それは悲惨な状況だった。
怪我人は意識のないものも多いが、屈強な戦士の痛みに耐えかねた悲鳴や呻き声が建物内のあちらこちらで響き渡る。そうして力尽きていくものも少なくなかった。
アンナリーナは一瞬、息を呑んだがすぐに【解析】をかけトリアージを始める。
そして一際、危機に陥っている患者の元に走った。
「閣下! しっかりなさって下さい!!」
従卒であろうか、悲愴な声が聞こえてくる。
「薬師です! 退いて下さい!!」
見るからに身分の高そうな騎士服は血にまみれ、切断された下肢と右腕は止血だけは行われていたが、大量出血は否めない。
浅い呼吸と弱い心音から、この医療院に運ばれてきた患者の中でダントツに危険な状態だ。
まずは無詠唱で【回復】をかけ、今にも燃え尽きそうだった命を拾い上げる。
「この方の周りをシーツか何かで囲んで下さい。
そして関係ない方はこの場から離れて下さい」
感情を爆発させかけたものたちを威圧し、あとはアラーニェに任せて、アンナリーナは患者に向き合った。
まずは残っている騎士服をすべて切り裂いて全裸にし、魔力水でていねいに洗い清めていく。
そうしながら全身を解析して、この患者の状態を確かめていった。
『幸い頭は打ってないようね。
頚椎も大丈夫……肋骨が折れて肺を傷つけている?
腹部の裂傷は、中までいっちゃってる……腹腔内は血まみれだね。
あとは右腕と下肢の欠損』
肺や心臓を圧迫する出血を止め、取り除くために【回復】魔法を多用する。
もちろんカモフラージュのためにポーションを振りかけた。
「もしもし、騎士様。
何とか少しでもいいからこれを飲んでください」
吸い飲みに移された特級創傷ポーションから少しずつ、唇の隙間から注ぎ込んでいく。
喉がわずかに動いて、アンナリーナはホッとした。
「その調子。
ゆっくりでいいからもっと飲んでね」
心なしか顔色が良くなったように思われる。
それを見てアンナリーナは、アイテムバッグから【劣化版アムリタ】を取り出した。




